さよなら虎馬、ハートブレイク
…ん
…花ちゃん
「凛花ちゃん」
「んぇ、」
「クリーム付いてるよ」
右っ側、と向かいに座った天の河に自分の口を示されて、慌てて紙ナプキンを引っ張ったらカチャンッとフォークがお皿の上で鳴って肩をすぼめる。
駅前に新しいケーキ屋さんが出来たから行ってみない、と放課後に誘ってくれたのは天の河からだった。せっかくおすすめのとろとろ生クリームのシフォンケーキを選んだのにはっとするとお皿の上でどろりと溶けていて、対する天の河の向かいのお皿はもう、空だ。
「今日ずっとぼーっとしてるね」
「そ、そんなことないよ」
「藤堂先輩のこと考えてたりして」
飲み物が気管に入ってけへっ、こほっと盛大に咽せる。涼しい顔でアイスティーのストローを咥える天の河にだから私はきっ、と目を剥いた。
「誰があの人のことなんかっ、」
「そ? ならいいんだけど」
謀《たばか》ったな、とむっとする私にそれでもあくまで天の河は冷静だから、その温度差に私は静かに目を伏せた。
「…藤堂先輩ってさ」
「…」
「かっこいいよね」
「顔だけでしょ」
「中身もかっこいいよ」
「知らないでしょあの人のこと。女の人見つけたら誰でも無条件で途端に目ぇハートにして飛んでっちゃうんだよ。今日だって、」
そこまで口にして、昼間に柚寧ちゃんに腕を絡まれて軽く目を細めて笑った、先輩の顔を思い出してちく、と胸に何かが刺さった。きゅっと唇を結んでも、目を閉じて深呼吸をしても、そのトゲみたいなものは抜けてくれない。
「…凛花ちゃんはさ、先輩のこと、どう思ってるの」
「え?」
「好きなの?」
「まっ…さか! やめてよ誰があんな」
「じゃあ何?」
凛花ちゃんにとって藤堂先輩ってなんなの、と真っ直ぐに問われて、頭が混乱する。先輩は、先輩は、…私にとって。
…あの人は、私にとって、なんなんだろう。
☁︎
「手伝います」
ほとんど仕事しないでいいかななんて、下心満載で選んだツケは必ず自分に回ってくる。その代名詞がこれですと説明されたら手本第一人者になりそうだ、なんて。
そんなことを考えて焼却炉の前でゴミをまとめていると、突如そのゴミ袋を誰かに掠め取られた。運命の幼馴染み、というワードが頭に浮かんでから、割って入ってきた塩見ににへ、と微笑む。
「おっ、やっさしー。顔見たら優しそ〜と思ったけど中身も優しいんか、惚れちゃう」
「いくら優しくったって好きな人に気づかれないんじゃ意味ないです」
「あら恋してるの! だれだれおじさんに言ってみ」
「先輩とっくに気付いてますよね」