さよなら虎馬、ハートブレイク
それなのになんでわかんないふりするんですか、と問われ、そのまま焼却炉にゴミを押し込む。
「だーめだなこれいっぱいすぎて入らん。校務のおっちゃん可哀想だから外まで持ってくか」
「〝協力者〟」
「ん?」
「藤堂先輩のことどう思ってるの、って聞いた時の凛花ちゃんの返答です」
「…ふふん、間違いない。あ、それ取って」
「僕、凛花ちゃんに本気です。
彼女を心から理解してあげられるのは先輩じゃなくてこの僕だ。僕はあなたみたいな本音を隠してへらへらしてる臆病者とは違う」
「えー? すげー喧嘩腰じゃんなに怒ってんのこわ」
「真面目に聞いてください! 女性なら誰だっていいくせに面白半分で首突っ込んでるんだったらやめ」
言い終わる前に壁に手を叩き込む。
そのまま真っ直ぐ見下ろすと震える瞳と目があった。
「威勢が良くて結構。けど1つ歳上から忠告」
「っ」
「泣かしたらぶっ殺すぞ」
じゃ、おつかれ。と笑顔で軽く肩を叩いてすり抜ける背後で、塩見は壁伝いに座り込んだ。
☁︎
大切なことを、ものを、ひとを、大切だって声に出して伝えられるひとは強いと思う。だってなんだか自分の弱さを認めるみたいで苦手だ。
だから訊かれて、はぐらかした。
私は自分の気持ちを誤魔化した。
「現文得意なんだね」
翌日の朝休み。自分の席で文庫本を眺めていたら、天の河に声をかけられた。
初めこそ話しかけられるだけでクラスメイトの注目の的《まと》だった私たちも、三学合同リレーの選抜選手と体育委員、その名目は誤解を晴らすのにうってつけで、要は天の河が連日私に会いに来るせいも相俟《あいま》って、いつしかそれが自然になった。
とはいっても、四六時中練習ばかりしているわけにもいかない。学生の本分はあくまで学業だ。体育祭後すぐに待ち受けている期末試験に備えて、私は勉強しよう、と誘ってきた天の河と一緒に図書室で教科書を広げていた。
「得意って言うか、お話だけ。本読むのとか、すき」
「あー、確かに気が付いたら本読んでるね。作者の気持ち読み解くのとか難しくない? 僕あれちょっと苦手、正解は割とはっきり出て欲しいかも」
「へー、なんか意外。昔は国語好きだったイメージ。あ、小3の時にした狼と兎の話覚えてる? あれ、狼に食べられちゃうとこで天の河がショックだったのかすっごい泣いてさ、授業中みんな笑ってたよね、でも私は」
「そんなのあったっけ、忘れた」