さよなら虎馬、ハートブレイク
天の河と目を合わせ、そして向かいを見る。今度は相変わらず柚寧ちゃんにボタンを付けられたままの先輩が気怠そうに流し目でこっちを窺っていて、おいなんだその態度ムカつくな!
「すっご───い! 先輩今の何ですか暗算ですか頭どうなってるんですか!?」
「2つとも応用でもなんでもないから柚寧ちゃんもすぐ解けるよまぁ中には苦手意識を持つあまり」
手こずるおバカさんもいるみたいだけど?
その言葉に私の中の何かがぷつんと切れて立ち上がる。
「悪かったですねおバカさんで向かいのチャラ男が目障りでろくすっぽ集中出来ないんですとっとと失せてもらえません」
「え、誰もオズちゃんのことだなんて言ってませんけど~自意識過剰なんじゃない大体出来ない奴ほど言い訳すんだよ嫌なら寺にでも篭ったらどうですか」
「いきなり解に飛ぶとか反則じゃん!」
「その程度の数学わかんねえとか先が思いやられるね!」
「あ───はいはい二人ともっ!!」
やがてヒートアップする言い合いはいつの間にか先輩をも起立させ、柚寧ちゃんが先輩の、天の河が私の向かいに割って入る。
啀み合っていたお互いが舌打ちして顔を逸らすと、柚寧ちゃんがぱち、と手を鳴らした。
「二人とも、体育祭の練習とかもあってちょっと疲れてるんだよ~、先輩ボタン付けれました♡」
「どうもありがとう」
「…ここは気分転換も兼ねて僕、飲み物でも買ってくるよ」
「あっ! 1人だと全部持てないからじゃん負けした2人が行くとかどお!?」
「いいねそれそうしよう」
「そうと決まればうーらみっこなっしよっ、じゃ───んけ───んっ」
「二人とも、喧嘩だけはしないでくださいね~」
窓の外でブンブン手を振る柚寧ちゃんに手を振って、先輩と並んで繰り出してしまったパーを見据える。なんなの。こういうのは言い出しっぺがハズレくじを引くとはよく言うけど、こんな所で発揮しないでよ頼むから。
なんだか気まずくて俯向く私に、衣擦れの音がする。先に窓に背を向けるように動いたのは、先輩の方だった。
「ああいう男性がお好みなんですね」
「…えっ?」
「爽やか男子」
顎で皮肉っぽくしゃくり上げられて、その先に天の河がいた。柚寧ちゃんと歩いてく背中が曲がり角に消えてから、私は顔を上げる。