さよなら虎馬、ハートブレイク
「…柚寧ちゃんはいいんですか?」
「足の経過は良好だ」
「でも」
「オズちゃんは何も気にしなくていい」
突っぱねるような一言に一瞬目を開く。戸惑う私の視線をしかし、もう一度絡め取ったのは先輩だった。
「…今は俺のことだけ見てればいいよ」
「…、」
「どこにいても、何があっても。
俺のこと突き動かせるのは、オズちゃんだけだから」
まっすぐ告げられた想いは、ひだまりみたいな優しいあたたかさだった。いつもの彼からは想像も付かない真摯な眼差しに魅せられて、思いがけずぶわりと赤くなる私に、向かいのバカはにやりと口の端を引き上げる。
「やーい赤くなってやんの」
「あっ…あなたが変なこと言うからでしょう! って鞄! 鞄返してください」
「藤堂真澄は四六時中オズちゃんファーストだからさ」
「どういう意味!? 返してよ!」
取れるもんなら取ってみろーい、といつのまにか掠め取られた私の学生鞄を掲げて、先輩は走って行ってしまう。むきになって追いながら、後から気がついたのは、彼は泣き腫らした私の気を紛らわすためにそんなことをしたのかもだなんてそんなこと。
だとしたら彼は相当の策士だし、悔しいけどこのひとには。まだまだ敵いそうにない。