さよなら虎馬、ハートブレイク
グラウンドには前日準備のとき並べられたパイプ椅子がクラス人数分綺麗に設置されていて、その前に仕切りも兼ねたロープが張られている。赤、青、緑、黄色と別れた4クラス分の応援団旗は各競技の際担当者が振ったり女子数人が掲げたりするが、何より。
そのひとが現れた瞬間、全女子は目の色を変えて応援する。
「キャ—————————藤堂せんぱ———いっ!!」
ムカデ競争、綱引き、棒引き、騎馬戦など。定番中の定番の競技、そのほとんどに参加している先輩はさっきから出ずっぱりで見ないときはない。玉転がしを終えて席に戻ってきた私は椅子に腰掛けると、クラスメイトの女子を遠目に応援用ミニフラッグを適当に振る。
「ヤバい今こっち見たー!」
「てか手振ってくれたよひーんかっこいい」
「わかるもう明日私骨折れる~」
直ちに病院行ってくれ。
足を組み頬杖をついて高みの見物を決め込む私は、端から見たら態度デカめだけどこのやり取り入学して何度目だよもう飽きた。くわ、とあくびを溢して先輩を見るに、いつもキラッキラ無駄にポジティブまとわりつかせてるような男に更にフィルターがかかってる。上げて喜ぶタイプの人間だ、更に女子に黄色い悲鳴をあげられて気分上々、二割り増しってところだろうか。
「ギャ———もう結婚して———!!!」
(そんでまた女子が騒ぐから悪循環)
先輩の周囲には確かに他にもかっこいいサッカー部やバスケ部の体育会系男子がいるはずなのに全女子総なめなのがもうウザい、周り白眼になってるし。
馬鹿馬鹿しくなって、はぁとため息をつく。障害物リレー、玉転がし、大縄跳びに出たから後の私の役目は残すところ最後の競技、三学合同リレーだけだ。
ふとそこでさっきの柚寧ちゃんの言葉が脳裏をよぎって、ぷるぷると顔を振る。違う、違うって。今は競技に集中しろ。自分が自分でいるためにぱちんと両手で頬を叩いたりつねったりしていたらきし、と音を立てて斜め前のパイプ椅子にクラスメートが腰掛けた。
少し前屈みになるような動作に、何気なく目がいってしまう。ふと視線を落とすと、華奢な細くて白い足に、砂利にまみれて赤が滲んでいるのが見えた。
「………あの、大丈夫?」
「えっ、」
痛そう。小さい頃こそ多少の転んだ傷は放置なんてザラだったけど、いざ高校生になって見ると久々なのも相俟ってまともに見れたもんじゃない。
そういえばさっき障害物リレーで盛大に転んでるグループあったけど、この子かな。あれこれ考えていてその子の顔はよくよく見もしなかった。