さよなら虎馬、ハートブレイク
タイム。先ほど塩見にやったように手を掲げ、もう片方の手で額を抑える。思考回路をフル稼働させ、え、と息を飲む。
「…何その話、オズちゃんをふった? 俺が? 事実無根だ」
「え、だって」
「告白だってされてないしされたら人生薔薇色だし挙式はグアムがいいかなどうしようってなるくらい有頂天になる俺がまさか彼女をフるとお思いか」
「確かにそれもそうですね」
でもそうだって聞きました。
嘘を言っている口ぶりではない塩見に、藤堂はまさか、と薄ら笑いを浮かべる。嫌な予感よ、的中するなと。それだけを願って、ゆるゆると口を開いた。
「…誰から?」
☁︎
放課後、第二校舎裏で。
約束の場所に駆けつけると、背の高い、黒髪のその姿が壁にもたれているのが見えてふわ、と思わず笑みが溢れる。
「来てくれたんですね」
あつい、走ってきたら汗かいちゃった、と笑う柚寧に、そっぽを向いていた藤堂が振り向く。美人は三日で飽きるなんていうけれど連日見ても飽きた試しがない。バランスの良いパーツにすらりと伸びた背丈が見上げるたび恋しくて、その手に一度お姫様抱っこされたんだ、と思うとまた頬に熱が宿る。
「話あるって言うから」
「あ、っはい! えっと、あの…へへ、先輩わたし、」
「その前に1ついい?」
壁から身を起こして影から現れる相手に、はい、と高揚しながら顔を上げる。やらかく微笑んでいた藤堂の笑顔は、瞬間すっと真顔になった。
「塩見誑かしたのおまえか?」
「………えっ?」
「本人から聞いたよ。図書室でじゃん負けした時だってな、俺とオズちゃんが残ったのをいいことにあることないこと吹き込んだんだろ。オズちゃんが俺に気があるだのそれを俺がフっただの。で、疑ってる塩見のこと上手いこと丸め込んだ。人間って信じたい方信じるからさ真実より、あいつも余裕なかった、そこにつけ込んだわけだ」
見かけによらず卑怯だねぇ、とポケットに両手を入れたままくるりと回る藤堂に、柚寧はしばらく遠くを見ていた。きょとんとして、その大きな瞳で虚空を舐め、そして潤んだ瞳で藤堂を見る。
「………そんなこと、するわけないじゃないですか」
「いや証言上がってんだわ」
「証拠は?」
「あ?」
「証拠あるんですか? わたしが塩見くんのこと誑かしたっていう」