さよなら虎馬、ハートブレイク
半目になりそっぽを向いて、藤堂ははー、と息を吐く。
「………きみ人の話聞いてた?」
「え、だってそれって塩見くんが勝手に言ってるだけですよね? 凛花ちゃんのことが好きだから手に入れたくてそんな嘘ついてるとかそう言う考えには至らないんですか? それなのに塩見くんの言葉鵜呑みにして私のこと一目散に疑うなんて心外っ…ひどいです」
「………なぁ今絶対しんどいだろ。嘘ついたんだってなんで正直に言えないの」
「嘘つきはどっちだよ」
振り向いて相手のネクタイを鷲掴む。
「知ってましたよはじめから。先輩が黙ってわたしのわがままに付き添ってくれたのも足挫いてそばにいたときもかわさないで一緒にいたのは全部全部本当はあの子のためでしょう。自分がそばにいたら凛花ちゃんの友だちやめないと思ったんだなにそれ醜ーい。凛花ちゃんのこと信用してるならそんなことしなくて良くないですか? 結局口先ばっかでお前らの仲良しごっこなんかその程度なんだよ」
「こういう子だって気付いたからだ」
「…は?」
「そういう子だって、認めたくなかった。信じたかったから疑わなかった。オズちゃんの〝友だち〟だから大丈夫って俺が思いたかったんだ」
ごめん、と謝る相手の意味がわからず怒っているのに笑けてくる。信じたかった、思いたかった。なにそれ、なにそれ、勝手に自己解決してんじゃねーよ。
「はじめからわたしのことこういう人間だって気付いてたならその時点で突っぱねりゃよかったじゃん、先輩が振り向いてくれると思ったからこっちはそのために友だちごっこやってやったんだよ!!!!!」
は、は、と肩で呼吸をし、むきになったことにはっとしてそこで伏し目がちの藤堂と視線があう。そして皮肉っぽく笑った。
「…やってやった」
「………ぁ」
「友だちってそんなんじゃねーよ」
「…」
「そんでなんも違わない。お前が自分のためにオズちゃんを利用したことも、俺がオズちゃんの為にきみを利用したことも。傷つけようとしてやった、お互い。そんで無事に傷つけた。そんだけ。もういいだろ」
「待っ…ちょっと待って」
「頼むから」
振り向いた瞳が柚寧を射る。光のない目が瞬いて、それからゆっくり突き放した。
「二度と俺たちに近付くな」
☁︎
『先輩に告白してくるから、
凛花ちゃんは大王公園で待ってて』
終礼後、そう柚寧ちゃんに話しかけられた。
土曜日に行われた体育祭の振替休日で月曜は休みになり、今週は火曜からのスタート。体育祭当日先輩に告白する、と言った柚寧ちゃんの言葉に、私はどんな顔で何を言ったのか、今ひとつ覚えていない。