さよなら虎馬、ハートブレイク
第五章
何かが変わり始めてる
体育祭が終わり、長かった梅雨が明け、暦は7月。
からりと晴れた青空、そこに悠々と揺蕩う入道雲。葉音擦れ合うさざめきに入り混じってグラウンドからは生徒たちの声が届く中、
私は壁に手をついて笑う相手を睨み付けていた。
知らないひと。たぶん先輩。茶髪に校則違反のピアスを付けたつり目の男は、移動教室の帰り突如私に絡んで来た。
「ね、あんた男性恐怖症とか言いつつ実は男漁ってんでしょ?
藤堂といくらでやってんの?」
「…」
「えーだんまり? てか地味ーと思ってたけどよく見たら可愛い顔してんじゃん。放課後おれと…」
まで言いかけたところでびく、とその人が青ざめる。だらだらと冷や汗を垂らした視線が私の向こうを捉えていて、振り向くと歩み寄ってきた藤堂《とうどう》先輩がにこりと微笑んだ。
「遠藤」
「えっ、あっ、なに…」
「れみちゃんが待ってたよ。お前とより戻したいって」
「え!! まじで!? 藤堂恩に切る!!」
あざす!! と合掌して足早に足をもつれさせながら立ち去っていく先輩に疑問符を浮かべる。なんだったんだ今の、変なの。
「大丈夫か?」
「え? あ、はい」
「そ」
ふわ、と柔らかく笑われて、なんかその気の緩さがまるでわたあめみたいだった。最近先輩は本当に良い意味で気の抜けた笑みを見せる。前からゆるゆるだったけどね。それに拍車がかかったと言うかなんというか。
「…なんか最近多くて、こういうの」
「こういうの」
「なんぱ?」
「それはオズちゃんが可愛いからだろ」
「は!? またそういうこと言う!」
「ほーんとだって。そして俺が凝りもせずずーっとそばにいっから気になったんじゃん、どんな子か」
世界がついにオズちゃんの可愛さに気がついてしまったかー、とか頭の後ろで手を組んで歩いてくから慌ててその背中を追いかける。それで懲りもせずまた同じフレーズを大声で言うからその背中を蹴ったりしたんだけど、実のところ、そんな理由があったわけじゃなかった。
その頃、噂が立ち始めていたらしい。
私に関する、あること、ないこと。例えば援交してるだとか、男を誑かしてホテルに入って行ったとか。
その出所をなんとなく知ってたけど、でもそこに証拠がなかった。あれきり教室で会っても一切目が合わず話しかけてもこなくなった柚寧ちゃんに、だからどうっていうんじゃない。
ただもう慣れっこだって自分では気丈に振る舞っているつもりでもそこに藤堂先輩に対する誹謗中傷も含まれていたことで、私の心はこてんぱんにやられていた。弱いところ。自分より何を傷つけたらその人が一番に傷つくか、把握した上でのその吹聴。だからといってやっぱりこれも証拠にはならなくて。
そのタイミングで重なった期末テストは散々の結果となり、私の精神は正直もうもたなかった。
「襲われたんだって、可哀想にね」
あと、根拠のない噂はたまに、真実へと辿り着くこともある。