さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「…こ
 こんな近くで男のひとに教えてもらったこととかないから
…き、緊張する」


 口を尖らせて、小声で告げたら逆に恥ずかしさで変になった。
 天の河の時も近くにいたけど、だってずっと幼馴染みとしてしか見てなかったから、以外になると、はじめてだし。

 ぽかんと口を開けた先輩を見て更にじわじわと上気していると、先輩が少し間を置いて「それってさ、」と身を乗り出す。


「俺のこと

 ()として意識してくれてるって解釈して構わない?」

「ち、近い!」
「いでっ」


 いってえな、って怒るから舌を出し、メニュー表でべすりと間を取り持ってみたり、かと思ったら切り替えてすこぶる勉強してみたり。

 思い返してみれば、球技大会の時のバスケ練習といい、今回の勉強といい。先輩には教えてもらってばっかりだった。

 先輩のお陰で期末試験で躓きまくった挙句転倒した私の理解度は何とか人並みにまで回復し、最後の練習問題までやっちゃおっか、と話をしていたところで、鞄の中のスマホが振動した。

 いいや、めんどい。集中していたから目もくれずにスマホを黙らせる私に、先輩がえっと声をあげる。


「いいのか? 出なくて」

「いいんですどうせ母親ですから」
「わかんねーじゃん、他の人とかから急ぎの用事かもしれないし」
「ない。何ならその目で確認して見ますか、私の電話帳に登録されてるのって家族だけですよ。あとは勧誘とか…」


 着信が切れたのを確認し、渋々スマホを取って、電話帳アプリを起動する。その際一番手前に出てきたのが〝柚寧ちゃん〟になっていたのを見たとき、しまった、と思った。今、見るんじゃなかった。あーあ。


 思ってたより、ダメージ、でかい。


 電話帳アプリを起動したまま硬直する私に、その手元を一瞬覗き込んだ先輩は、何を察したのだろうか。突然スマホを掠め取られて、はっとする。

「な、なにすん」
「まーまー」

 悪いようにはしないって。ソファにもたれたまま手で制し、手早く何かを打ち込むと先輩は三度ん、とそれを私に返す。
 ついでに見てみてと目で告げるから、指図されるがまま視線を落とすと電話帳に知らない番号がぽつり、追加で1つ。


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