さよなら虎馬、ハートブレイク
「俺の番号」
「ぇ…えっ!?」
「今更感否めないけど。てか言ってなかったのびっくりだよねー、でも俺とオズちゃんは赤い糸で繋がってるかr」
「クソいらないです!」
「なんでだよ!!」
秒のツッコミもフル無視で、でも電話帳に家族以外の名前が載るのは二人目で。心は躍っていた。スマホを眺めたままほくほくする私は、その一方で1つの気掛かりに思考を停止させる。
「…先輩も、柚寧ちゃんの番号知ってるんですよね」
「知らないよ」
「え、でも」
「聞かれたけど言わなかったね、スマホ持ってないふりしてたから」
両手を挙げてそう言う先輩は、片手にスマホを携えてはいるものの確かにどこか不釣り合いだ。今時よくそんな見え透いた嘘押し通せたなと思う反面、それが普段。この人がスマホを持ち歩かない人種だという理解が定着していれば、然程難しい事でもないのかもしれない。
で、釈然としない私の顔を表情を見たからか先輩ははぁ、とため息混じりでテーブルに肘をつく。
「…何かまだ勘違いしてそうだからこの場を借りて言っていい」
「?」
「…わざわざ口に出していうのどーかなって思ってたけどわかんなそうだから言うけどな。俺があの子のそばにいたのは、それがオズちゃんの為になるならと思ったからだ
そうじゃなきゃ傍になんていない」
アイスコーヒーのグラスに刺さったストローで氷をカラカラ鳴らして視線を伏せた先輩は更に本音言うとさ、と続ける。
「…今まで女の子のそばにいてその子以外のこと考えるのなんてなかったのに…なんでだろうな。柚寧ちゃんのそばにいる間、俺ずっとオズちゃんのこと考えてた」
今何してんのかな、
あの幼馴染みくんと一緒かな、
また一人で泣いてんじゃねえかなって、
ずっと、ずっと。
「俺は、傍にいないオズちゃんのことばっか考えてたよ」
優しい目に魅せられて、とくり、とくりと鼓動が鳴る。何かを考えるように逸らされていた眼が、私と重なった時。
それでもこの気持ちを上手く、私は言葉に出来ないから。
「…よっぽど私のこと好きなんですね」
「うん」
「、」
「…自分で言っといて照れんなよ可愛いな」
確かめるように紡がれた、空白のひと時を埋めるように。
ゆでダコの様に真っ赤になった私を、向かいの先輩はからかうように笑った。
☁︎
「先輩って、何になりたいんですか?」
勉強のためとはいえ、結果6時間もの間カフェにいた。もう頭ん中ぱんぱんで他になにも入らない、ってくらくらする私に気をつけろよって笑いながら、だからそんなことを聞いたんだと思う。たぶん脳みそ使い果たして、ろくすっぽ回ってなかったんだ。