さよなら虎馬、ハートブレイク
人混みに紛れてしまうと無自覚に離れてしまいがちな二人を繋ぎ止める、赤い縄。一見すると何あれ、と引かれがちだけど。先輩に触れられない私にとって、これほど心強いものはなかった。
縺れて、解けて、ダメになったらまた繋ぐ。ただ、それの繰り返し。簡単に縄はほつれない。しっかり縛っておけば、繋いでおけば、私が掴んでさえいれば。
人混みの中にいてもはぐれない。お互いを見つけることができる。その安心感があったから、好きなわたあめを食べて、金魚すくいをして、射的をして、りんご飴を食べて。私は終始上機嫌だった。
それから、これは余談だけど先輩は案の定射的も金魚すくいも上手かった。私の得意分野でもある金魚すくいを二人で対決なんてしようものなら、屋台のおじさんが青ざめて。
私も先輩もそれに苦笑いして、結局全部の金魚を返す事にした。一度すくわれた金魚たちはまた水を得ると、それが生き甲斐のように自由気ままに泳ぎ回っていた。…
「先輩、なかなかやりますね」
先ほど通りかかった屋台で購入したりんご飴、それを眺めながらぺろりと舌を出す私に、少し前を歩く先輩はひょっとこのお面を斜めに装備したまま振り返る。
「その言葉そっくり返しますけどね」
「あそこまで上手い人初めて見ました。私の周りはへたっぴな人ばっかだったので」
「そうなの? 上手い大人とかいなかった?」
「…せいぜい一匹とかだけですよ」
昔、小さい頃。祭りに行くときはいつも、斜向かいに住む従兄弟のエイにぃを誘っていた。
彼はその日になると朝からテンションの高い私をうざったそうに煙たがって、いざ夜になって夏風邪で私が祭りに行けずに泣き喚いても、構わず放って行ってしまうような酷い人だった。
でも、たくさん泣いて、たくさん苦しんだあと、目が覚めて枕元に一匹の金魚の袋があったのだけはちゃんと覚えてる。
不器用で優しかった。誰かに優しくするのが、人一倍へたくそな人だった。
もう、ここにはいないけど。
「………オズちゃ、」
「うわあぁああぁああぁあん」
私たちの向かいで突如泣き始めた男の子に、二人揃ってギョッとする。齢は、ざっと見て4、5歳くらいだと思う。
鼻水ダラダラで泣き喚く少年に一度先輩と顔を見合わせて、すかさず彼が先にその子の前に屈み込む。
「うーい少年。どうした」
「ママがぁあああああっママぁあああああ」
「あー、はぐれちゃったのか」
ぐすぐすと泣き噦る彼の横腹を軽く擦ると、先輩は私を見る。いや見られても困るし。私は無理だとぶんぶんと左右に首を振ると、先輩はしー、と口に指を突き立てた。
そして少年が泣き噦ってる間にさっと顔にひょっとこのお面をつけ、そして今一度問いかける。