さよなら虎馬、ハートブレイク
 

連れ(・・)、って、智也先輩だったんですか」

「そそ」
「夏休みも一緒とか仲良いですね」
「いやこいつがど〜しても会いたい会いたいって俺を朝っぱらから呼び出しt」

 スパン、と智也先輩のツッコミが飛ぶ。今日はえらく暴力的だな。清々しいからいいけど。

「参考書見に行くの付き合うっつったどっかの誰かさんがいつまで経ってもその気になんないから痺れを切らしたんだよこっちは」

「お前よくあんなんずっとやってられんね。赤本見ると酔わない?」

「酔わないよ。てかお前も仮にも受験生だろ」
「僕勉強したことないんで」
「しね、なるべく苦しんでくたばれ」
「親指立てて溶鉱炉に消えてくやつな」
「それ映画のラストシーンだろうが!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎ出す二人を交互に見て、堪らずぷっと噴き出す。(たが)が外れた、と言うか緊張がほぐれた。うん、これに近かった。
 笑っているのに目からはぽろりと涙が溢れ、私を含め、先輩二人もギョッとする。


「えっ、待っ…小津さん今の冗談だから、藤堂なら殺しても死なないから」
「いや殺されたら死ぬわ!!」

「す、すみません二人の会話が面白くてつい、笑い泣きです。笑い泣き? うん、笑っ…」

 ぽろぽろと溢れる涙を指でぬぐい、顔を逸らす。どこが釈然としない様子で顔を見合わせた二人は、やや少し経ったあと。
 不意に身を乗り出した二つの影の一方が、ここぞとばかりにイケメンボイスで呟いた。


「オズちゃん、ちょっと俺についてこい」


 ☁︎


「———で、なんでカラオケ?」


 夏の真昼間を感じさせない薄暗い部屋、そのど真ん中にぎらぎらと光るのは、見る者全てのテンションを瞬く間に上げるミラーボール。
 夏休み、暇を持て余した学生が考えることは大抵皆同じらしい。三人で、とカウンターで言ったはずでも空き部屋は満室。唯一空いていた料金割高のだだっ広いパーティルームを訪れた私たち一行の内、智也先輩は。

 発言権を獲得した政治家の一人のように、マイク傍らに酷く沈んだ目で挙手をした。

「辛いとき…そんなとき、人は定期的にガス抜きをせねばならんのです。それに1番直結したストレス発散法…と言ったら万国共通でカラオケやろがい」

「それお前の頭ん中だけだろ」
「そうでもないみたいだけど」
「エモーショナルロック最高ぉお——————!!」

 静かに後ろ指を指す先輩の背後、パーティルームのど真ん中で大好物のロックを熱唱すること・12曲。おまけにフェスなんかじゃ見れない好きなアーティストのPV映像付きで気分上々に歌い終えると、私は「はい次。」とモニターに指を走らせる。


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