さよなら虎馬、ハートブレイク
「たこ焼き機で火傷ってどんだけドジなんですか、そのまま溶ければよかったのに」
「縁起でもないこと言うなよ」
「そもそも一人暮らしのくせにたこ焼きって何」
「一人暮らしだからこそだよ、簡単だしコスパ最高。何なら食いにくる?」
「手。出したら舌引っこ抜きますけどそれでもいいんなら」
「えげつないところが鬼頭ちゃんに似てきたな…」
白目で嘆く先輩そっちのけで、頬杖をついて街行く人を眺める私。ふいに視線を感じて文字通り一瞥をくれてやると、先輩は大丈夫か、と続けた。
「一昨日。様子おかしかったから心配してたんだよそれなりに。いつ連絡来るかわかんなかったから待ってたし、いや結局待てなかったんだけども」
オズちゃんへの重すぎる愛が成せる技と言うか断じて暇だったとかそんなんじゃなくて、とか誰も責めてないのにひとりでにブツブツ言ってる向かいにジト目をくれる。そのうちそれもバカらしくなって、行き着く先にこの人に救われている現在、私が偉そうな態度を取れる立場でもないことに気付いた。
一昨日だってそう。
この人を振り回してポイ捨てしたのは、いいように使ったのは、
悪い女は、私だ。
改めて姿勢を正して向かいを見ると、少しだけ首を傾げて、優しく微笑む先輩と目があった。
「今から、大事な話しますね」
「え?」
「試験だったら絶対出ます」
「マジでか。待ってメモする」
「喧嘩中の従兄弟が帰省してるって言ったでしょ」
机の角に置いてあった紙ナプキンにボールペンでメモを取ろうとした手が、突如ピタリと動きを止める。私の真剣な眼差しに何かを察したらしい、先輩は静かにペンを置いた。
「…うん」
「母親の姉…要は伯母さんの子どもです。年が8つ離れてるんで、小さい頃からからかい半分、よく遊んでもらってました。
父親はいません。伯母さんが若い頃、遊んでる相手と出来たのが自分だって、従兄弟は…エイにぃは昔、言っていました」
深刻な物事ほど明るく話すと、物体は重力を失くして風船のように軽くなるのだと、どこかで聞いたことがある。自嘲気味だったかもしれない。それでも笑って話す彼の横顔は、子どもながらに鮮明に覚えている。
「伯母さんがいなくなったら、エイにぃは実質ひとりになっちゃうんです。だけど今日、伯母さんはうちの母親と出かけるって言う。
大の大人相手にひとりだ何だって大袈裟かもしれないですけど。だからお母さんは、今日はうちの父親も帰ってくるしエイにぃと一緒にごはん食べろって」
「待った。父親が帰ってくることってそんなに特殊か? 毎日帰ってきてないの」