さよなら虎馬、ハートブレイク
「なにそれ、同情?」
「…え、」
「外野から見て俺ってそんな可哀想に見えるわけ? …余計なお世話なんだけど。お前に俺がどう見えてんのか知んねーけどさ、正直買い被り過ぎて寒気すんだよ。事情がわかって相手が可哀想って思ったらお前、あんなことされても許容するんだ? しょうがないって受け入れようとするんだ」
「違う、」
「お前が俺にビビってんの妥当な反応だから。間違ってねーから。じゃなきゃ俺が今まで何のために…」
正面のエイにぃの顔が一瞬歪んで、泣きそうになる。
ちがう、ちがうよ。私はただ。
「…私はエイにぃのことが、」
「あー、違うか」
吹っ切れたように空を仰ぐ。少し顔を傾けた彼の色のない瞳がやんわりと細められて、薄い唇の片方が、僅かに上に引き攣った。
「お前だって後半乗り気だったもんな」
「———なん」
恥辱にかっ、と顔に赤みがさすのと同時に彼の腕に捕まって簡単に後ろになぎ倒される。ソファに仰向けに沈んだ私の上に跨って、頭の上で組まされた手首をへし折られそうなほど強く握られた。
「や、だっ…! 離して、エイにぃ痛い!」
「お前昔っから俺にべったりでさぁ、見るからに大好きだったもんなー。どうだった? 好きなやつに抱かれる気分って、無理矢理でもやっぱいいもん?」
「……………っ、なんで…」
「いいこと教えてやろうか」
上に乗ったエイにぃの唇が瞬間、私の耳元に触れる。びく、と飛び上がる前に低い声が聴覚を冒した。
「俺がお前に手、出したのって。
俺がお前のことどうでもいいからだよ」
何かが、割れる音がした。
…あの時と同じだ。
「………やめて…」
指先が髪の毛をよけるのと同時に、そ、と柔らかな感覚が首の付け根に落ちる。煙草の香りと衣擦れの音がして、視界が揺れる。天井を瞠った目からぽろぽろと涙を溢す私をじっくり堪能するようにエイにぃは鼻で笑うくせに、前髪から覗いた瞳は、
今にも泣き出しそうだった。
その目とかち合った瞬間、私はエイにぃを押し退けて家を飛び出していた。