さよなら虎馬、ハートブレイク
存在価値
「いよっ、栄介くん高校進学おめでとーっ」
それから二年が経って、高校に進学した。
家計は相変わらず厳しかったけど、一番厳しかった頃よりはまだましだ。晴れて正式に店にバイト出来るようになった俺を、常連の良客は本当に自分の子どもみたいに扱い、喜んでくれる。
金と時間を持て余したろくでなしの吹き溜まりだと思ってた昔の自分を殴ってやりたい。人は案外、見かけによらない。
「やー、よく頑張った! 勉強してたんだろ?」
「してない」
「ふっつーに近くの名前書いたら受かるような偏差値終わってる高校だから」
「上等上等! 入学しちゃえばこっちのもんよ! 店にも堂々と出られるわけだし」
「いやほんと。お客さんみんな共犯してくれたおかげ」
「栄介言い方考えなさい」
「酒飲んでも?」
「良いわけないでしょ」
「今日くらいいーじゃんなるちゃん」
「だ・め! これ以上脳細胞死んだらどうすんのよ」
「喧嘩売ってんのかコラ」
あの男と会ったことは、言われた通り一切なかったことにした。
金輪際会いにくるなと言われて、俺自身何を血迷って会いに行ったのかわからなかったし、それを調べた興信所の男もいつしか店には来なくなったから、俺さえ忘れてしまえばなんてことはない。
傷はいつか癒える。傷跡は、勲章にすればいい。
いつか大昔に見たテレビの、戦隊モノのヒーローが間違いを犯した人間に諭した言葉だ。
邪魔だ、いらないって言われた命だって別に、深く考えなきゃある程度のらくら生きられる。ここにあることを、咎められなければいいんだろ。静かに、細々と、ひとりで。
そんなだから、特に、意味も価値も見出さずにただ呼吸をしていた。毎日、毎日。今日をそれっぽくやり過ごすことに、必死だった。
そんな時。時間ばかり余って生きるのを持て余していた高一の秋、音楽に出会った。
三年の軽音部が文化祭で演奏する音響設備を、人手不足と暇を理由に任されたのだ。
(…へたくそ)
練習当初から携わっていた設備に、舞台上で演奏する三年はがむしゃらで無茶苦茶でうるさいばかりだったのに、何故か下手くそなその歌が耳にこびりついて離れなかった。
心から叫んだ言葉は、意志を越えて誰かの胸に直接届くのかもしれない。でなければどうして家に帰ってもあの場所から離れた今、歌がずっと耳に残っているのか説明がつかない。