さよなら虎馬、ハートブレイク
半目ですかさず言ったものの、前に先輩を見たお母さんの反応を見る限りでは本気でそう言いかねないから、先輩のジョークなのかどうだかわからない。
それでも彼の電話越しの対応を見るなりきっと心配はしただろう。違うな、きっと、今現在も。今になって思っても仕方のない罪悪感がこみ上げてきて、黙って静かにソファに三角座りをする。そのまま丸くなって膝に顎を乗せていると、ため息をついてキッチンの方へ消えた先輩が、私の前のテーブルに静かにスープ皿を置いた。
「…なにこれ」
「スープ作った。その名も“まーくんお手製たっぷり野菜の冷製ミネストローネ〜おかわり自由を添えて〜”」
「料理名におかわり自由添えんな」
ぴしゃんと素っ気なく言い切る私に、先輩は苦笑いで応える。
「腹減ったろ、たんと食べていいよ」
「いらない。お腹すいてないs」
ぐ——————きゅるるるるる。
「…体は正直だけどな?」
形勢逆転ってこのことか。それまで下手に出ていた先輩に勝気に半目で言われれば、そっぽを向いていた顔でぎっと相手を睨みつける。
渋々スプーンを手に取って一口、スープを口に含むと。空きっ腹にトマトスープの味が染み渡った。
そういえば朝、ごはんを食べたっきり何もお腹に入れてなかったんだった。一口飲み込んだだけで体が縋るように手を伸ばして、一口、また一口と胃の中に流し込む。
「…おいしい」
「おっ珍しく素直。だろー、オズちゃんの為を思って美味しくなーれ♡ ってそりゃもう愛情を込めてだな」
「おいしい」
「あはは、そんなに? てか褒めても何も出な、」
私の顔を覗き込んだ先輩がぎくっと意表を突かれた顔になる。テーブルの一点を見つめたまま、私の目から大粒の涙が溢れていたからだ。
「おいし…っ」
泣きたいわけじゃない。辛くて出てるわけじゃない。
それでもぽろぽろと後から後から溢れてくるそれを手の甲、そして手首で拭っていると、私の隣に座った先輩がそっと私を覗き込む。
「…何があった?」
涙色で滲んだ世界の中、隣の彼と目を合わせる。意志の強い真っ直ぐな瞳は私の眼を静かに見据えて、小さく、低い声で問いかけた。
先輩に問われて、私はその日のこと、それから従兄弟のエイにぃと過去にあった全部を打ち明けた。
従兄弟のエイにぃが大好きだったこと。
彼の歌が私のすべてだったこと。
それなのにエイにぃが。エイにぃが自分の居場所を見失って苦しんでいるときに、
一番近くで見てきたはずの私が、その何一つ気づいてあげられなかった。