さよなら虎馬、ハートブレイク
「まぁお転婆で、男勝りで、負けん気が強くって。そのくせ負けず嫌いでぶっきらぼう。僕も家内もそんな性格じゃないのに、誰に似たんだかって、拾ってきた子なんだよってからかった時は一人部屋にこもって泣いちゃうくらい、実は繊細で素直な子」
「(俺もそれ言われたことあるわ)」
何その嘘、親限定で必ず子供に言わなきゃいけないシリーズかなんかなの。しかも同じように傷付いてやさぐれた過去があるだけに、胸に手を当てて心中お察しする。父親は尚も続ける。
「ちっさい頃はね、お父さんお父さーんって、僕のあと追っかけてたんだけど。やっぱり男親は辛いよ、思春期になると白状なくらいきっぱり切り捨てられるんだもん
目を合わせなくなったり言葉をろくに交わさなくなったりね、凛花も同じだった。でもその反応はある時を境に明らかにおかしかった」
栄介の一件があったからだ。
この人は知っているのだろうか。仮に知っていたとしても、どんな想いでいたのだろうか。
父親は視線を伏せ、掌を見つめる。
「…原因なんてね、すぐわかるんだよ。親ってそう言うもんだ。ましてやあの子の場合はわかりやすかった。ひた隠しにしようとすればするほど、ボロが出るんだ人間って。
あの子が慕っていた子もいなくなって、目に光も無くなった。目を合わせないどころか僕を見て怯えていた。〝家族〟はそのとき、家族である名前を失くしたんだ」
「…」
「僕は逃げたよ。家内を一人家に置いて、あの子のためを思ってる素ぶりを見せて、向き合って自分が傷付くのが怖かった。抱えてやる度胸もなかった。差し伸べた手を払われる恐怖を思い知ってしまったから」
顔を上げ、そっと遠くを見つめる。駆けっこをしていた小さな子どもたちは遊具に手を伸ばし、楽しそうに笑っていた。
「でも、あの子は最近変わったよ」
「…」
「顔を上げて、僕におかえりって言ってくれるようになったよ」
目を見開き、隣を見る。父親もまた目を細め、自分の腕に巻かれた包帯を見た。
「…身を挺して、あの子のこと護ってくれたんだね」
目尻に刻まれた皺は、元々彼がよく笑う人間だったことを証明するもののようだった。鼻の奥がツンとする。眉間に皺を寄せてぐっと堪えると、ふるふると首を左右に振る。
「…俺はいつも、自分のしたことが間違ってたんじゃないかって。後になって後悔して、迷ってばかりいますよ」
「君の迷いや後悔の果てに、うちの娘は立ってるよ」
「…」
「少なくとも君が護ってくれた分だけ、凛花は前を向いて歩けたんだ」
「…」
「いくら感謝しても足りない。あの子を支えてくれて、照らしてくれる光になってくれて、ありがとう」