さよなら虎馬、ハートブレイク
《———以上をもちまして、卒業式有志による演奏を、終了いたします。次のプログラムに移るため館内にいる生徒は———…》
「あの、すいませ…すいません」
ぞろぞろと体育館から出てくる生徒の流れに逆らって中へ進む。その合間で辺りを見回して、よかったねーと喋っている女子生徒にしがみついた。
「あっ、あ、あの! あの、演奏…演奏、終わっちゃいましたか!?」
「え? うんたった今終わったよ。今来たの?」
「ざんねんーすっごい良かったのに」
「ねー」
ボーカルもいたらよかったのにね、と声が通り過ぎていって、呆然と立ちすくむ。
遅かった。間に合わなかった。とん、と肩に人がぶつかって、眉間に皺が寄りぽろ、と涙が落ちる。悔しくて歯を食いしばる。
「………エイにぃ………」
—————————————…♫
「………え?」
「なに? アンコール?」
「まって、でもボーカルいないんじゃ」
「しっ! 静かに!」
うたが、聴こえた。
それまでぞろぞろと歩いていた生徒が立ち止まり、振り返り、耳を澄まし、その声を聴いた。暗幕を引いた向こうから届く声に目を瞠る。知ってる。私だけが知っている。この声の弱さも強さも熱も、
雑音が交じったら消えてしまいそうな儚く脆い音色も。
でも、私だけじゃなかった。みんなに届いた。
そのたった3分27秒に、誰もが心を奪われた。
「ねえ、今日の卒業生有志、サプライズあったってほんと?」
「イリュージョンだよねー。演奏者しかいなかったのに、幕が降りてからあのあと3分半、誰かが歌ったんだって」
「え、なにそれコワッ」
「でも、良かったんだよそれが」
「えー?」
「上手いとか下手とかはわかんないけど、なんか、心持ってかれた」
「わかる、わたし聴き入っちゃった」
「てか、あれってラブソングだよね?」
バンドメンバーの演奏には間に合わなくて、それでも私は、私が一番聞きたかったあの歌を、体育館の入り口で聴いた。
エイにぃが過去に過ごした校舎を歩くうち、軽音楽部の部室が見えた。
札が立てかけてあるけど、軽音楽部とは名ばかりで、エイにぃの学年が卒業してからは部員が一人だったりで、ほぼ機能していないらしい。
そのもう随分と寂れた扉の前に背中をつけて座り込む。
私は、知ってた。