さよなら虎馬、ハートブレイク
一歩、前へ
高校生活初めての夏休みは、あっという間に過ぎた。
エイにぃが休暇の1日早く神奈川に帰ったことを知ったのは、既にエイにぃがこの町を去った後だった。
散々迷惑をかけた智也先輩にも後日改めて謝ったら、デコピンをくらった。ちょっとびっくりしたけど、心配したんだよ、って笑われた時は泣きそうになった。
まだこの手は怯えることもあるけれど、もう前ほど恐れてない。あの日エイにぃにちゃんと伝えたいことを伝えられたから。
傷があった。罪があった。
恥じず、顔を上げて。臆病な足はまだ少し躊躇うけれど、前よりは重くない。
過ぎた夏を駆け抜けて、季節は、秋になろうとしていた。
☁︎
「それでは、各自グループで配分された課題をもとに研究テーマをまとめてください。展示の材料で必要なものがあればその都度報告すること」
(…文化祭)
ついこの間体育祭が終わったところだと思ったのに、学校っていうのはとことん行事が盛りだくさんで休みボケをしてる暇もなく、行事に取り掛かる必要があった。
一年生は展示をするらしい。研究テーマは自分たちで何を決めてもいいから、ひとまず教室と廊下に展示出来るものを作成して設置したりする。
二、三年は模擬店と、三年に限っては演劇があるらしいから一年の間は正直まだ、ちょっとしょぼい。
けど私が振り分けられたグループは球技大会で一緒になった仲谷さんを始めとするバスケ部グループだから明るくて、さっきからピタゴラス●ッチする? とか、和気あいあいと喋っている。
「隣の班プテラノドン作るんだって。鳥人間」
「えぇすご! 幅とるよ! でも上からぶら下げたら結構迫力あるかも」
「あー、二年なったらお化け屋敷とかしたいなー」
「小津さんは? なんかしたいのある?」
「あ、えっ」
話聞いてなかったでしょー、と笑われて、慌てて瞬きする。
「そいえば、三年の劇さ、藤堂先輩出るんでしょ」
「え、そうなの?」
「そりゃそうでしょー。あのルックスと人気あるのにキャストに選ばない理由ないない」
「何するんだろ!? 王子様かな!? 王子様かな!? 王子様がいいな!?」
「サナ落ち着いて」