さよなら虎馬、ハートブレイク
なんかちょっと何言ってるかほとんどわからなかったけど悪い子ではなさそうだ。
私がこうしてる間にも隣で「それなのにまさか今日突然の新規イベ!」とか「尊え!」とか「愚民と美少女がお昼ごはんなんて」とかぶつぶつ言っててちょっと怖い。
それで眼鏡の下から顔を覆う仕草を横目にこくん、とご飯を飲み込んだら、ふとその手のひらに目がいった。
学級委員で、たくさん仕事をするからか、その手は乾燥して少しだけ荒れていた。切り傷もあって、そろりと目を地面に逸らす。
「はぁあっ! ちょっとでも言うだけ言ってスッキリしましたでも自分風情が凛花さんと肩を並べてお昼ごはんなんて不届き者の極みなのでそろそろおいとまいたしますですね! それでは素敵なお昼をお過ごし下さい!(藤堂先輩来い) それではっ!」
「あのさ」
「はい!」
なんでしょう、とくるりと振り向いて呼び止められたぱぁあ、みたいに目を輝かせている児玉さんを真っ直ぐに見上げる。
「あの…余計なお世話かもしれないんだけど、学級委員長のしご、と…嫌なら嫌って、言っていいと思う」
「…え?」
「あ、えと、むり? してるように見えたからなんとなく。 嫌じゃないなら、せめて自分一人で抱えるのがしんどいって、誰かにもたれかかってもいいと思っ、て…」
上目で告げてから、うわ、何言ってんだ自分、って思った。
好きでやってることだってある。他人のことなんて見てるだけじゃ何一つわからないのに、しゃしゃっていらないこと言った。言葉にしてからうわぁ、と顔を逸らして、やっぱ今の忘れて、って言ったけど聞こえてるのかいないのか。
全然返事がないからしばらくしてからそろ、と目を向けると、
張り詰めた糸が切れたみたいに、児玉さんがぽろり、と涙を溢した。
「えっ、!? あっ! ご、ごめん!!」
「———ぁ、やっ、ちが、ちがうんです、これはその、ちがくて」
慌てて駆け寄ってハンカチを差し出したらか細い声でうれしくて、と聞こえた。合わさった瞳を見て気のせいは気のせいなんかじゃなかったと思った。
私の記憶のしおりはやっぱり、間違いじゃなかったんだ。