さよなら虎馬、ハートブレイク
「児玉さんは文化祭展示、何するの?」
お昼休みが終わって教室に戻る道すがら、職員室に寄って児玉さんが任されていた仕事の一つを回収してきた。頼まれていた模造紙を抱えながら隣を歩く彼女に、尋ねてみる。
「わたしは最低限提出を求められてる総合学習の自己課題だけですよ、生徒会役員は有無を言わさず文化祭実行委員に協力しろというのが生徒会長からの御達しで」
「そっか…え、待って児玉さん学級委員だけじゃなくて生徒会にも入ってるの?」
「じ、実は中学の頃も生徒会役員やってたのでその流れで高校も部活やらないならせめて立候補してみよっかなーっ! て乗り出したら成り行きでトントンと…
…いかんせん暇してると一瞬で妄想の世界へ入り浸っちゃうんで」
へへ、とぽりぽり頬を掻く児玉さんが本当にすごいと思う。
学級委員やって、文化祭実行委員と生徒会兼任って。私だったら間違いなく過労死してしまう。
「すごいね。本当に無理しないでね」
「そんな…! 凛花さんにそんなこと言われたら俄然頑張りたくなっちゃいまふぶっ」
「児玉さん!?」
にこにこ微笑みながら振り向いた矢先、突然現れた謎の物体に彼女の体は巻き込まれて盛大にすっ転ぶ。
渡り廊下に差し掛かった所で真横からぶっ飛んできたその謎の物体は、ゴロンゴロンと派手な音を立てたのち、廊下の隅にぶつかって停止した。
何事かと近寄り、思い切って拾い上げ、その謎のもふもふ—————クマみたいな着ぐるみと目と目が合う。
こっ、…これは。
「可愛い…!」
「ごめんそこの子、大丈夫!?」
遅れてドタドタと駆けてきた見慣れない顔ぶれは、恐らく3年生だろうか。女子生徒2人の内1人が児玉さんを抱き起こすと、頭を抱き締めたままの私に歩み寄る。
「あは、それ気に入った? かーわいいでしょ。何に見える?」
「クマですか?」
「たぬきなの」
「ごめんなさい」
大丈夫まだ製作過程だから、とかえって先輩2人の気を使わせてしまいぎゅううともふもふタヌキを抱きしめる。以前藤堂先輩から誕生日プレゼントでもらった黒猫さん抱き枕といい、無類のもふもふ好きなのだろうか私は。自分ではあんまり自覚ないんだけど。
「これからタヌキっぽくなる予定! ポン太っていうの、文化祭ん時マスコットとして歩き回るから見つけたら手振ってあげてね」
そう言うと、3限の予鈴を合図に彼女たちはポン太の頭部を持って足早に撤退する。ポン太の頭突きをくらって眼鏡がズレた児玉さんもまた、振り向いた私を見ると気恥ずかしそうに笑った。