さよなら虎馬、ハートブレイク
「あっぶね。大丈夫?」
自分もろともぶちまける予定だった段ボールはばすりと鈍い音を立てただけで、まだ自分の手中にあった。うっすらと開いた瞳に映るはそれを支えた誰かの腕と、壁ドンしたまま心配そうに顔を傾ける
————————藤堂真澄先輩デハゴザイマセンカ。
「うえあああああ!?!?!」
「!? ちょっ、大丈」
「えうっあぐあ来ないでください素晴らしすぎですか超肌ッ綺麗ぇえ!! 半端ねぇこの世のものとは思えなっめが、目がぁあぁあ」
「ちょっとこの子ヤバいんだけど誰か救急車呼んで!!」
狭い階段の踊り場でギャンギャン騒ぎ、助けたにも関わらず結局落下しかねない暴走少女を何とか羽交い締めにする。それすら血走った目や蒼白する顔面から発狂の原因と知る直前、はたと思い返すのは今日見た特別棟からの光景。
「…あれ、どっかで見たと思ったら君、今日オズちゃんと一緒にいた」
ヤンキー座りのまま顎に手を添えじろじろと上から下まで児玉を舐め回す藤堂の目は、完全に査定モードに入っている。
校内でラッキースケベ経験したかと思ったらCMみたく残念なオチがあるでもなく、またイケメン作動させてくるのが他の誰でもない藤堂というだけでお腹いっぱいなのに何ですかこの時間、と兎のように怯える児玉は、震える体で勇気を振り絞る。
「何なんですか! イケメンだったら何してもいいわけじゃないですよイケメンだからって」
「何回イケメン言うんだよ。いやさ、春頃から気になってはいたんだよなんか視線は感じんなーって。でも特に危害加えるわけでも無さげだしミーハーなファンか何かかなって見逃してたわけ。
でもオズちゃんと接触した以上彼女に害加える存在だったら潰すからその見極め」
「くっ藤堂フィールド(?)全開…っ」
遠巻きで見ていたお姫様を守る紳士全開な姿がまさかこんな形で、生で見られるとは。しかもこっちが追っかけてたのサラッと気付いてたって何ですか強すぎしんどい総括して最の高。
疑われていようがもうこの際構わない。負けを認めて壁にへばりついたまま小さく蚊の鳴くような声で絞り出す。
「きっ…昨日から…り、凛花さんとご贔屓にさせていただいております児玉 累と申します……」
「あ、そう。んじゃたまちゃんだ」
「うっぐ」