さよなら虎馬、ハートブレイク
会心の一撃。吐血してばたりと倒れる少女はびくびくと痙攣し、さすがの藤堂でも一筋縄ではいかない脅威に青筋を立たせる。一方で害はなさそうだと判断した上で、これどうしたらいいとりあえず保健室連れてったほうがいいの、と目線を逸らした先。
何故か雑草が入った段ボールに首を傾げた。
「…なぁたまちゃん、のびてるとこ悪いんだけどこれどこ持ってくつもりだったん」
「せ、生徒会室です…わたしこう見えて書記なので」
「ふーん。雑草運搬も生徒会の仕事なの」
「は、雑草?」
よじよじと段ボールににじり寄り、中身を見て目を見開く。おかしい。確かに会長から渡り廊下で仕事を受け継いだ際、中身は文化祭で使う媒体だった。それなのに、黒のゴミ袋の中から顔を出したのは———単なる、雑草。
ふと、渡り廊下で押し問答した先ほどのことを思い返す。会長から段ボールを受け取って、それから他の仕事があるからとメモを取るため段ボールを地上に置いて。
その近くで確か雑草刈りをしていた校務員のおじさんがゴミ袋に詰めた雑草を段ボールに…
「…しまった、もしかしてわたし中身間違って持ってきて」
「?」
そこまで言ったところで、中庭の方から見知らぬ男性の悲鳴が響き渡った。
☁︎
「歩きスマホは危ないよお嬢さん」
文化祭の動画編集は結構骨が折れるもので、総合の時間に必死こいてスマホやPCを持ち寄ってみんなで作業している時はちょくちょく門倉に渋い顔で遊んでないか覗き込まれたりした。動画クリエイターって、今有名だけどこんな大変なんだな。目がしぱしぱする、と目を擦って放課後渡り廊下を歩いていたらその声に呼びかけられた。
そして、振り向いてギョッとする。
「先輩」
「よっす。昨日ぶり」
襟がえらく伸びた薄汚れたTシャツに、工事現場なんかでおじさん達が着ているような作業着。極め付けに頭にタオルを巻いた藤堂先輩は、手の甲で額に滲んだ汗を拭うと白い歯を見せた。
「何やってんですか!?」
「校務員ごっこー。元いた校務員のおっちゃんがちょっとした手違いでギックリ腰になっちゃってさー、軽い段ボールを力任せに持とうとしてこう、ぎくっと」