さよなら虎馬、ハートブレイク
「ねえねえ、見てあれ」
「えっ、やだ可愛いやばーい♡」
「最高なんだけどー…!」
4限の選択授業が終わり、本棟に戻って来た時だった。お昼休みを前にいつもなら購買や食堂へ向かう女子生徒の数人が、廊下で賑わいか細く、それでいて遠慮がちに黄色い声をあげている。
ふと彼女らの覗く中庭あたりを見下ろすと、木陰に立つ藤堂先輩と、智也先輩のツーショット。
そして、軽く屈んだ先輩のおでこに智也先輩が手を差し伸べる姿があった。
「あの二人、ほんっっっと仲良いよね〜」
「私あの二人ならデキてても諦めつくわ」
「ちょっと待って何それBLじゃん」
「児玉さん」
「ゔぁいッ!?」
教科書を抱きしめたまま微動だにせずその様子を眺めていた彼女は、私の呼びかけに血走った目で振り向いた。
「………児玉さんって、私と藤堂先輩っていうか…やっぱり藤堂先輩のファンなんじゃ」
「やっ、やめてください確かに藤堂先輩の顔面偏差値は認めていますが私の固定推しは江坂先」
そこまで言うと息を吸い込んで両手をガバリと口に置く児玉さん。きょとんと目を丸くすると、彼女はウッと言葉を詰まらせた。
「…児玉さん、智也先輩が好きなの?」
「いや…! 好きとかそう言うんじゃなくて遠巻きで眺めて拝みたいファンの一環ですほら絵になるじゃないですかめちゃくちゃあの二人クッソいいぞもっとやれ」
「(それで中庭から急に消えたのか)」
目的は藤堂先輩を紹介するためだったとはいえ、この前、いざ中庭で智也先輩が現れたとき忽然と姿を消したのもそう言われてみれば合点がいく。
「あっ! でも断じてあの二人を男同士のまぐわい目当てで見てたわけじゃ…見てたんですけど、見てなくて」
「どっち?」
「おいどーいうことだよ柚寧っ!!」
突如届いた怒号に、二人して顔を見合わせる。声の出所は、既にギャラリーがいなくなり人気の少なくなった廊下、その端にある女子トイレからだった。
「なんっかおかしいと思ったんだよここ最近、相方から連絡ないしさあ!!」
「仲立ちするフリして人の彼氏に手出すとか何考えてんの!?」
「信じらんない、最っ低…。死ねよ顔だけ女」