さよなら虎馬、ハートブレイク
文化祭
〝先輩、付き合ってる人、いるんですか?〟
〝——————…うん〟
切なげに笑う先輩の顔を見て、腹の底から後悔した。
自責の念は間を置かずむくむくと込み上げて、足のつま先から頭のてっぺんまで私の体を飲み込む割に、真っ白になった頭で何て言ったか覚えてない。
今でも思う。まずった。聞かなきゃ良かった。そしたら知らずに済んだのにと。
あれから二週間。文化祭当日の今日に至るまで、藤堂先輩とは会ってない。
☁︎
体育館下、野外模擬店会場。
風船や花飾りで彩られた華々しい翔青祭のアーチを潜ってすぐ、屋内模擬店の広告を配る生徒たちのさらに奥から。その甲高い声は一際他の模擬店より違う意味で観客を集めていた。
頭にタオル、背中に白字で「イケメン番長」とお手製感マックスの印字が成された黒のTシャツ、—————加えて、謎にハートのサングラス。
正体は、たこ焼き鉄板の上で本物さながらのピックさばきを見せる、この人物。
「はいそこのおねーさんおにーさんよってらっしゃい見てらっしゃい! C組名物アツアツたこ焼き8個入300円いかがっすかー!
見てください本拠地大阪を負かすこの大きさ日本No.1! 今ならななななんと! 本来8個入のところを女の子限定で2個追加で同じ値段で御奉仕致します!!
もちろん金利手数料は全て藤堂が貴方の口元まで負担いたしま゙が」
「誰がジャパネッ藤堂やれっつった」
突如、鷲掴まれた顔面ごと鉄板に叩きつけられジュウッと香ばしい音がする。
しかけたのは人混みを掻き分けてやって来たウェイター姿の茶髪、智也の容赦無いツッコミに顔面に鉄板痕を付けた藤堂はタフにもむくりと起き上がる。
「消費者の心に寄り添った究極形だと思ってつい」
「てかお前B組なのに何他のクラスのたこ焼き屋手伝ってんだよ」
「通りすがりにヘルプ頼まれたんですねえ。ミサキちゃんが手伝ってくれたら無料でたこ焼き2パックと“あーんオプション”付けてくれるって言うから☆ ねー? ミサキちゃん」
「人手足りてきたからお勤めご苦労ありが藤堂!」
「ちょい待ちあーんオプションは」
「相手にされてねーじゃねーか」
べすん、と、お約束のツッコミがあってピックもろとも店頭販売の座を奪われる。その際ミサキが押し付けたたこ焼き2パックを受け取ると、藤堂はサングラスを額に乗せ渋々ぱくりと口に含んだ。