さよなら虎馬、ハートブレイク
(行こう)
笑って、泣いて、強い瞳で送り出してくれた言葉に深く頷いて駆け出した足は、今あの人の為にある。
(——————先輩に、会いに)
手を大きく振って全力で一歩を踏み込む度、今までの記憶の欠片が走馬灯のように甦る。
いつだって笑って、隣にいて、震える手で怒って強く抱きしめてくれた。
「………っ」
今だってこれっぽっちのことで私は泣きそうになるけれど、会いたい。
あなたに会いたい。
「———、っせんぱ、」
「ぅおっ!!」
建物脇を抜けた瞬間、突然現れた誰かに正面からぶつかった。
「いっ…てぇな、どこ見て歩いてんだよ」
盛大に頭を打ち付けてちかちかする視界に、ぽっかりと浮かぶ真昼の月———ではなく、ほぼ白に近い金髪。学ランだから、他校の人間らしい。尻もちをついた場所で二度ほど頭を振るそいつ、唇にピアスの開いた眉無しに睨まれて、凍り付く。まずった。今時こんな絵に描いたような不良日本にいんのかよ。
顔を上げると金髪の両サイドにもう二人、髪を上げた黒髪と目付きの悪い茶髪が立っていてひく、と喉が鳴る。
「………ぇ、ぁ」
「ぶつかっといて詫びの1つもねえのかよテメェコラ」
「よせよ。丁度いいわ、メインステージどこかこいつに聞こうぜ。在校生のがわかるだろ」
「あー…そだなおまえ道案内しろ、メイン会場どこだ」
「ぁ、ぉ、」
踏み込んで来た金髪に覗き込まれて、萎縮する。口はぱくぱくと金魚みたく開くだけで言葉が出てこない。すると、伸びて来た手に容赦無く胸ぐらを掴まれた。
「っ、!」
「おい黙ってないでさっさと」
ぽむ。
「あ?」
あ、ポン太。
金髪の肩に後ろから手を置いたのは、翔青祭マスコット・ポン太である。
その場にいる誰より長駆で存在感のあるポン太は、道案内をしようとしてるらしい。固定の可愛い顔のまま身振り手振りで金髪に何かを伝えようと必死だ。
「んだよわかんねーよ。つかおまえに聞いてねんだよ俺らはこいつに…」
「ふわぁっ!?」
「あ!? おいちょ、コラ待て!!」
突如金髪の意表をついたポン太の肩に担がれて、世界がぐるんと反転する。途端、文字通り脱兎の如く駆け出すポン太によって不良たちの姿はあっと言う間に小さくなった。