さよなら虎馬、ハートブレイク
「私が一度でも貴方に答えを求めましたか?
私は知って欲しかっただけです、気付いた気持ちがあって、それを貴方にただ伝えたかった。頷いて、笑ってくれたらそれだけでいいと思った」
好きだって伝えたその先が例え私たちにはなかったとしても。
「それだけ、じゃ、だめなんですか」
「…だめだよ」
「なん」
「応えたくなるこっちの気持ち、まるでわかってねーんだもん」
今まで見てきた中で、一番切ない笑顔だった。
一瞬。ほんの一瞬だけこのひとの真髄に触れた気がした。黒よりも深い黒にひたりと、透明な涙は落っこちて融解する。
いくら掻き分けても見えない。彼がこうやって、いつだって自分をひた隠しにするんだから。
「オズちゃんの気持ちには答えられない」
殺伐とした言葉に、ほんのちょっとの優しさを灯して。
「……ごめん」
何を抱えてるんだろう。何を隠してるんだろう。
手探りな感覚だけで私はゆっくりと口ずさむ。
「…私だって力になれる」
「無理だよ」
「無理じゃない、」
「簡単なことじゃないんだ」
俺のせいで泣いて欲しくない。
「…わかってくれ」
上体を起こした先輩は、俯いて目を合わせてくれなかった。でも言葉は、まぎれもない彼の中の真実だった。不鮮明で漠然としたやりとりの中、私たちを繋ぐ確かなものはここにあるお互いだけだ。もう追求しなくったっていい。
今は、先輩を恋しいって想う気持ちが、こんなにも愛しい。
「…わかった」
「、」
「だってあなたを信じてる」
私の言葉に、向かい合った彼の瞳が震えた。
着ぐるみの手がそっと私の頬を撫でると、私も静かに目を閉じる。額が触れて、先輩の匂いがするのに届かない。いいんだ、もう。この体1つ、触れて交わすことすら出来なくたって。
一生、この想いが届かなくったって。
「…演劇」
「…え」
「観に来て、頑張ったから。オズちゃんに観て欲しい」
「…うん」
小さく控えめに頷くと、先輩は目を細めて笑った。