さよなら虎馬、ハートブレイク
第八章
暮れる、太陽
文化祭が終わって、10月になった。
残暑が遠退くと季節の足音は秋へと向かい、空は日に日に高くなり、校舎を行き交う生徒たちの制服は、半袖から長袖になった。
入学から半年を過ぎた1年生はすっかり高校生活に馴染み、2年生は趣味、そして恋愛の秋に明け暮れる。
人目を忍んで木陰でイチャつくカップルも、一生に一度の青春を謳歌していると思えばそれも風物詩だって、最近は思えるようになってきた。
『オズちゃんの気持ちには答えられない』
先輩にはフラれた。
それでも世界は、前と同じように回っている。
土曜日、駅前時計台。
約束の10時まで、あと10分。
休日の駅前は待ち合わせをするカップルや友人同士であぶれていて、自分が目印になれば見つけやすいかと、色味のある服を着て来た。
襟と袖が白でワンポイントになっているイエローオーカーのワンピースに、赤ベルトの時計、ブラウンのベレー帽、猫の刺繍が入ったレースの靴下、それからお出掛け用のローファー。街のディスプレイに飾られていた完全マネキンコーデのこれらに一目惚れした時は、貯めたお小遣いを全部はたいて買ってしまった。
お母さんも可愛いからいい買い物したねと言ってくれたけど、出掛けに交わした一悶着を思い返して、私はげんなりと肩を落とした。
『あら凛花、おめかししてお出かけ?』
『うん、ちょっと先輩と』
『へー先輩…先輩!? 先輩って、藤堂くん!?』
『違うよ今日は他の先輩』
冷蔵庫をパタンと閉じて、グラスに入れた牛乳がくぴりと喉を鳴らす。そのまま不意に振り向くと、あからさまに疑いの眼を向けるお母さんと目があった。
『他の先輩って…男の子?』
『………そ、そうだけど』
『だっ…だめよ凛花浮気は絶対ダメ!! お母さん藤堂くんじゃなきゃ』
『もううるさいうるさい! いってきます!』
…ああ、思い出すだに陰鬱になる。帰ったら間違いなく小一時間は尋問だ。
(…ともあれ成り行きで話がトントン進んだけど大丈夫かな私)
「ごめん、お待たせ」
聞き慣れた声に顔を上げると、手を挙げて走ってくる智也先輩が見えた。