さよなら虎馬、ハートブレイク
 

 駅前から少し離れた、スポーツ用品店。Tシャツやバスケのユニホーム等の並びにあるスニーカーコーナーにて、一人用のソファに腰掛けた智也先輩は試着したスニーカーの足を軽く上げた。


「どうですか?」

「うん、いい感じ。確か、27.5〜28cmくらいだったと思うんだよね。メーカーにもよるけど、体育ん時スニーカー忘れて借りたらちょいでかいくらいだったから、その理屈でいくとおれが履いてワンサイズ大きいくらいのやつが丁度いいと思う。

 でもよくスニーカーなんて思いついたね、確かにあいつそれまでスニーカーだったのに春からずっとローファーだわ」
「いやそうさせた原因私なんで」


 きょとんとする智也先輩に、苦笑いして目を逸らす。

 春、大学生に絡まれ、更に何も知らない藤堂先輩に心配してもらったにも関わらず彼のスニーカーの上に嘔吐した記憶は、今となってはいい思い出…になるはずもなく最早ただのトラウマだ。


 そのあとすぐ謝礼のためにと手渡した福沢諭吉も先輩は私のため(主にマジックハンドや男性恐怖症克服の参考書)に費やしてしまって結局なあなあになってたし。我ながらいい案だとは思えども、時既に遅し感は(いな)めない。

「でも、さすがです。智也先輩、藤堂先輩のことなんでも知ってるんですね、やっぱり仲良いんだ」
「おれとあいつはちょっと特殊だから。なるべくしてそうなったというか、そうならざるを得なかったというか」
「…聞いても?」

その時(・・・)が来たらね」

 で、どれにする? 座って私を上目に見る智也先輩に、えっと、と慌てて近くに置いていたスニーカーを手繰り寄せる。

「あ、じゃ、じゃあこっちの白ベースに青のライン入ってるやつと、あと緑がワンポイントのがいいかなって思ってて…あ、でもこれなんか足の甲硬いな。こっちは踵のとこ慣れるまでは刺さりそうだしうーん」

「素敵な彼女さんですね」


 二人して顔を見合わせ、バッと振り向く。いつの間にそこに立っていたのだろうか、ポニーテールにキャップを被った若い女性店員さんは、後ろで手を組み微笑ましそうに私たちを見守っている。

「えっ、」

「服屋とかならまだしも、カップルがスポーツショップに来て、ましてや足のサイズのことこんな親身になって考えてくれる彼女さんそうそういないですよー。来たとしてもやっぱ途中で放置したり飽きて外で待ってたり。ほら、こういう店って独特の匂いあるじゃないですかぁ。

 彼氏さんいい子捕まえましたね〜」

「や、いやあの、ち、ちがうんです私たちカップルじゃなくて」


「僕の友人の彼女です」


 ぴしゃり、と言いのけた先輩に女性店員さんとこぞって目を丸くする。それでいて視線を伏せて紐をくくった智也先輩は、これは? とそれ以上店員さんに構わず次のスニーカーを私に手渡してくるだけだった。


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