さよなら虎馬、ハートブレイク
そのあとお父さんの誕生日も近いから、という理由で少しだけ他のお店も見て回って、センスがいい智也先輩自身にプレゼントを選んでもらった。黒のベースにシルバーのラインが入った万年筆。ショーケースの前でじっと見てたしいいね、っていってたから、たぶん間違いないと思う。
バイトもしてないしお小遣いだけだから今日だけで結構散財自体はしたけど、日頃から地味な生活をしてるからお金が貯まってたし、よかった。
「お目当てのもの買えてよかったね」
無事購入出来た二つのプレゼントを掲げてるんるんで電車に乗り込む私に、彼はさりげなく藤堂先輩のプレゼントの袋を私の手から掠め取って、やんわりと微笑んだ。
「ありがとうございます。どれもこれも智也先輩のおかげです。…というか智也先輩、荷物、私自分で持てますよ」
「いいよ、おれが持つ。たくさん歩いて疲れたでしょ、電車降りたらどっか座れるとこで休もうか」
週末の土曜ということもあって、車内は人で溢れている。ドアの脇で立っていた私と智也先輩以外にも、同世代くらいの男女が座って楽しそうに話していたりして…ひょっとすると、逆の立場で考えたら、店員さんに誤解されたように。端から見たら私たち二人もカップルに見えているのだろうか。ふと、外の景色を見ている智也先輩の横顔を見上げる。
飴色の瞳に流れる景色が反射するのが見えた。何も知らない人からすると一見冷たいような印象を受けるのかもしれないが、智也先輩は優しい。藤堂先輩に引けを取らない観察眼だってあるし、今だって私の疲れを気にかけてくれた。だからこそ、だから、こそだ。
…智也先輩は誰かに寄り添いたいとか、思わないのかなって、思って。
「…智也先輩は、好きなひといないんですか」
口をついて出たのは、心からの素朴な疑問。私の声に反応した先輩は少しだけ目を見開くとゆったりと振り向いて、
私を、見た。
「いるよ」
「!」
「…絶対叶わないひとだけど」
着いた。
ぷしゅん、と電車の扉が開き、倒れるように先輩が外に出た。押し寄せる人の波に紛れて、慌てて私もその背中を追いかける。