さよなら虎馬、ハートブレイク
涙
祝日を挟んだ週明けの火曜日、私はいつもの中庭で先輩のことを待っていた。時は昼休み。一応朝、先輩には初めてスマホのメッセージを送ってみたんだけれど、見てくれただろうか。
まさか送れてないなんてことないと思うけど。スカートからスマホを取り出して、先輩に送信した一文を確認する。
【本日正午、中庭にて待つ】
「………ちょっと固かったかな」
「ピ———」
「!?」
突然耳元を掠めた感覚と高い音に飛び退く。ばっくばっくと鳴る心臓をそのままに構えると、背後の茂みの中から藤堂先輩が現れた。
彼は懐かしいおもちゃ・「吹き戻し」を片手に、長い足で茂みを乗り越えてくる。
「オズちゃんの奇声もろたで」
「何やってんだバカ!?」
「売店のおばちゃんがくれた。いーだろ〜」
ふふん、とこれ見よがしに見せつけてくるそれを別に羨ましいとも思わないし、他の誰かが持っていたら間違いなく頭の弱さを心配されそうなものですら、この人が持つと様になる。
伏し目がちに三連に分かれたそのおもちゃをいじくる先輩を見上げれば、少しだけ顎を引いた。
「あの先輩…私朝、スマホで、め、メッセージ送ったんですけど、見ました?」
「え、見てない」
「見ろや」
「俺普段スマホ持ち歩かないもん」
「そうだった」
この人思いの丈があったら機械に頼らず自分の足で届けに行くような原始人だった。両手で顔を覆う私に、隣から呑気に吹き戻しのピーっという音がする。
「でもオズちゃんからメッセ来たとか何ただの俺得記念日だな、後で戻ったら永久保存して藤堂コレクションの中に」
言い終える前に、後ろ手で隠していた紙袋を押し付ける。
「これ、誕生日だから」
「へ?」
「靴」
一拍遅れてようやく受け取った先輩の紙袋には、前に智也先輩と行ったスポーツショップのロゴがでかでかと飾られている。案の定予想外だったのか、目を丸くする先輩は袋の中身をちらりと覗いて、顔を上げた。
「…オズちゃんもしかして春にリバったことまだ気にしてたのか?」
「気にするでしょ! トラウマになりますよ普通!」
「俺ならピンチをチャンスに変えるね」
「うるさいです」
開けていい? と小首を傾げる先輩に遠慮がちに頷く。この様子、はたから見るに街中によくいるカップルの男女とまるで逆だ。ベンチに腰掛けて袋から出したスニーカーを見ると、先輩は早速試着する。
「でも感心。メンズのスニーカーのとこよく行けたな、ひとりで?」
「いや、智也先輩と」
「はあぁああぁあ?」