さよなら虎馬、ハートブレイク
「累。一階行くんなら飲み物もついでに入れてきて」
「えっ」
「ドリップコーヒーミルクなしね。お湯の比率間違えんなよ水っぽくなってまずいから。ポットのお湯嫌だからやかんで熱湯沸かすこと。あと濃いのが好きだから蒸らしてから1分は置いて」
「細かっ! いつもそんな細かく言わないじゃないですか」
「この部屋に収まりきらなくておれの部屋にあるBL本今度のゴミの日に出そっかな」
「いってきますね!」
わあ、尻に敷かれてる。
即座に敬礼して階段をバタバタと駆け下りて行く児玉さんを目で追って、慌ただしさの喪失にふ、と息をつく。児玉さんていつもアクセル全開で生きてるよな。だとしたら私は常日頃惰性だ。JKあるまじき姿。
シン、と静まり返った室内で、座ったままぐるり、部屋を見渡す。そこで、不意に。気が付かないふりしてたけど。
物々しい空気感と、肩からズン、と重くなるような気配にそろりと顔を上げる。案の定いつのまにか部屋に入室し、一定の距離で様子を窺う弟くんと目があって、
さっ、と視線を逸らした。
…弟くん、あんまり児玉さんに似てない。いやそんなことないな。あの子普段あんなだけど見た目めちゃくちゃ美少女だし、目も大きいし、まつげも長いし髪の毛もサラサラだ。シャイなのか、赤縁眼鏡の奥にそれを隠している気もするけれど。それに並んで、弟くんもカッコいい部類だと思う。
色白だし、黒髪も艶々だ。目も大きかったなたぶん、半目でしか目を合わせてないからわからないけど…
と、そこで視線に耐えきれずばっ、と正面を向いた。今一度衝突し合う目線に、威嚇もかねてぐっと顎を引く。
「あの。な、なにかな」
「別に」
「いや別にって私のことさっきからめちゃくちゃ見てるよね」
「強いて言うなら品定め」
「え?」
きょと、と目を丸くする私に、弟くんはそっと視線を伏せる。外から帰ってきたのだから自分の部屋に戻ればいいものを、そうするつもりは毛頭ないらしい。そして、遠巻きで様子を窺うことに留まる、人見知りというわけでも。その証拠に彼は私の座る斜めの位置に腰を下ろすと、胡座をかいた。
「あんたがいーやつか悪いやつか、おれが判断してやんないと」
「………なんでそんなこと言われなくちゃなんないの…」
つん、とそっぽを向かれて、なんだこいつと思う。愛想ないな、と思ったけど、私も大概こんな感じで反省した。