さよなら虎馬、ハートブレイク
雨傘
誰かと一緒に行ったって、先輩には私が見えないみたいな態度をされる。
それまで変なセンサーを働かせて私の居場所を察知して、犬猫みたいに尻尾をふっていた人が隣を真顔で通り過ぎた時、正直心が死んだと思った。でも傷ついてでも向き合わないと自分も他人も変えられない。
学校でも人気者の先輩の女性遊びがまた激しくなったと聞いたのは、その頃の話だ。
「なーんか最近あのオルチャンメイクとよく一緒にいるよね」
「えー、誰が?」
「藤堂先輩!」
二年の転校生なんだって、読モらしいよ、ハーフだとか、体重40ないらしい。そんな本当か嘘かもわからない噂だけが教室中を行き交って、元々二、三年のギャラリーに比べて権力の少ない一年は、こうして自分たちの教室の窓からたまに見かける先輩や女子の姿を指をくわえて見る他ない。
なんとかエマ、っていうらしい。そういえばこの前先輩に飛びついていたとても可愛らしい女の子も、そんなふうに自分を名前で呼んでた気がする。
「てか放課後の〝予約制〟ってあれマ?」
「あー、お相手お願いしたい子が先輩の靴箱にメモ入れといて、OKだったらメモに時間だけ書いて返ってくるやつね」
「なにそれえろ! そんなんうちらでもワンチャンあるじゃん」
「いや相手にされないでしょ」
「でもさ、何があってもキスだけはしてくんないらしいよ」
どんな噂が立っていたって、あの人の本当は、私が先輩と過ごした半年間の中に絶対ある。
取り囲まれていることが多いなら、誰かとそばにいたら私を映してくれないなら、一人でいるところに飛び出していけばいい。
でもその考えは浅はかだって、いつも他人に思い知らされる。