さよなら虎馬、ハートブレイク
児玉さんの腕に絡みついてそそくさとその場を後にする柚寧ちゃんがいなくなると、自ずと私と天の河が二人、取り残される。
やがて知らない生徒のバイバイ、また明日が遠ざかった頃、天の河は私をまっすぐに見据えた。
「…ごめん。どうしても、凛花ちゃんと話したかったから」
「…」
「怒ってる?」
…彼は、人の顔色ばかりうかがって、眉を下げてばかりな気がする。それも、特に私の前に限って。
「怒ってない」
「!」
「こういう顔」
マスク越しに上目で睨み付けると、驚いたように目を丸くした天の河は、仔犬のように情けなく笑った。
「ほとぼりが冷めるまでちょっと時間を置こうって思ったんだ。…なんて嘘。あまり途中で掘り下げると自分が試験に支障を来すかもなんて建前並べて、怒られるのが怖くて声。かけらんなかった」
校門をくぐって帰途についてから、天の河はそんな風に言った。一人ストーリーテラーみたいだ。私の隣でひとりでに笑ったり困ったりする声を、それとなく聞き入れる。
彼の語る物語は核心に触れたのか、一度息を飲んで黙った。横断歩道の前、信号が赤になって立ち止まると、俯いたまま告げる。
「…………嫌だった?」
「え?」
「僕と手、繋ぐの」
それは間違いなく、前に手を繋いで帰った日のことを言ってるんだと思う。それまでとは打って変わった真摯な眼差しに、思わず視線が右往左往してしまう。
「ぇと、」
「…」
「…別にそういう、わけじゃ、…ないけど」
「じゃあ、はい」
スッ、と淀みない動きで手を差し伸べられて、ギョッとする。おいまじか。またか。またこれやんのか!
「いっ、…今風邪ひいてるし」
「マスクしてるじゃん」
「感染リスクが」
「やっぱり」
だめ?
仔犬のように屈んで上目で訴えられ、ぐうっと後ずさる。何この女子力。私よりめっちゃ女子。てかもう日本語になってない。愛らしすぎる天の河の一言に圧倒され、ほぼほぼ流される形でそっと手を差し伸べる。
伸ばした手がその手に触れそうになったところで、