さよなら虎馬、ハートブレイク
「触るな」
男子生徒の手が、倒れた凛花に触れる寸前だった。人混みを掻き分けた藤堂は、そのまま屈みこんで凛花を姫抱きにする。
「俺が連れてく」
「…え、でも」
「いいから。みんな、あんま騒ぐな」
続けて、と伝えれば騒つく生徒の合間を縫って体育館を後にする。程なくして背後から静粛に、と教頭の声が聞こえてきた。
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…熱い、手のひらだ、と思った。
支えられた肩が、首の付け根に触れた頭が、風邪とは明らかに違う熱に浮かされていた。歩くたび頰をさらう風は冷たいのに、この空気の中で、香りで、思い出す。知ってる。
——————私はこのひとを、知ってる。
保健室に着いて、ベッドにふわ、と体が沈む感覚があった。視界が、もやもやしてる。熱くて、よくわからない。それでも。
「…………先輩……」
絞り出した声に、正面の影が揺らいだ。明らかに動きを、止めた。くっ、と目を凝らすと、驚いたような表情の藤堂先輩が、見えた。力の入らない手で、手探りで、私は彼の服をきゅ、と掴む。
「………先輩」
「、」
「せんぱ、」
大きな手のひらが、服の裾を掴んだ私の手を解いて、そっと掴む。伏せた視線で行き場のない思いを歯を食いしばって飲みこむと、
そ、と私の額に触れるだけのキスをした。
それきり遠ざかっていく足音に、保健室の扉が閉まる音。あれほど焦がれた熱の喪失に目を閉じたまま、涙が一筋、頰を伝って落ちた。
「…ばか」