さよなら虎馬、ハートブレイク
 

《…多分、何かしらあったら連絡寄越すんだろうから敢えて何も言わないし、ひとが地に足つけて生きてるって、それだけで奇跡だからこれ以上何も望まないけど。…でもやっぱりさ。人間、欲張りになって困るね。

 だから父親って特権使って言わせてもらうと、
 お前がどこで何してても文句言わないから、年末年始くらいは元気な顔見せに帰ってきなさい。

 あ、でも待ってどこで何しててもって言うのはちょっと訂正、なるべく健全に毎日》


 ピ——————。



【———メッセージを削除する場合は、1を。もう一度再生する場合は…】


「………切れてんじゃんかよ」


 中途半端に録音が切れてしまうところに、父さんの相変わらずな残念さを思い出して笑えた。声に出して笑おうとしたら、涙が頰を伝って落ちた。


「…父さん…っ」


 もういやだ。つらい。苦しい。消えたい。

 死にたい。


 こんなどうしようもない自分、生きていたって仕方ない。どこかに早くいなくなってしまえばいい。
 一思いに逃げようか、ここではないどこか、例えば誰の目にもつかない遠い場所へ。

 そして一生そこで、誰とも関わらないで息を潜めてひっそりと、ずっと独りで生きていく。


「………なんて、」


 無理だ、そんなの。

 人間死ぬときは一人でも、一人では生きられない。なんだそれ。誰が決めたルールだよ。くだらない。嘘くさい。いなくなれ。全部消えていなくなれ。あ、違うか。


 消えればいいのは俺の方だ。








 ☁︎


(………暗)

 涙で濡れた頬は渇いて、リビングの柱にもたれたまま迎えた朝は雨だった。
 衝動に突き動かされるまま、上に撥水性のパーカーを着て、フードを目深に被る。


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