さよなら虎馬、ハートブレイク
「で、その藤堂先輩に基本まとわりついてる女子の一軍がいるわけ」
「あのひと基本女の子侍らしてんじゃんよ」
「言わば猿山のボスだ、ボス。それが3年で藤堂先輩と同クラの安斎有愛希ってひとなのね。
いつも先輩の隣にいて、抜け駆け厳禁、声かけるにも何かするにもまず筆頭のチェックが入る。とどのつまり彼女が率いてる女子の軍団は先輩を守る盾、所謂“藤堂親衛隊”ってわけ」
おお、なるほど、わかりやすい。
そう感嘆の声をあげる彼女と、気持ちはほぼ隣にあった。思わず誰もいない自分の席で頷いて、隣の席の男子にチラ見されて無に戻る。
「私が悪いの、今日、出しゃばって先輩にタオル渡したりなんかしたから」
「リーダーの安斎先輩はキレるとマジ絶対怖いよ、2年で不登校になったひといるって聞いたもん」
「ま、だからこれを機に迂闊に近付くなってことよな。綺麗な薔薇には棘があるってよく聞くやつ、あれ案外薔薇の周りのセキュリティのことかもね」
話にオチがついたところで、現国の小太り教師が教室に戻ってくる。学級委員長の起立、の合図で席を立ち、今の話を反芻すると、とあるフレーズが魚の小骨のように喉の奥に引っかかった。
—————————“いつも先輩の隣にいて、何をするにもチェックする”
(………まさか、な)
脳裏をよぎる一抹の不安に、嫌な汗が頬を伝う。
いや、きっと違う、大丈夫、大丈夫。
根拠のない言葉で何とか自分を鎮めて目を閉じる。それでもその日の午後の授業はずっと、右半身がじくりじくりと痛んでいた。