さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「…で、今日どこ行くの。俺何も考えてきてないけど」

「あ、大丈夫です。ちゃんとその、下調べして来たので。きょ、今日のことは任せてください」
「そ」


 じゃあいこ。

 素っ気なく言うなりさっさと歩き出す先輩の背中を、私は慌てて追いかけた。














 まず映画館に向かって映画を鑑賞後、ランチないしカフェに入り軽食。午後から都内に新しく出来て話題沸騰中と噂のアミューズメントパークに行って、夜はメインイベントでもあるイルミネーションを見る。

 私がここ数日なけなしの情報を搾取(さくしゅ)して組んだ今日1日のプランとしては、こんな感じだった。

 ぱっと見ありがちだし、インドアの私からするとどれか1つに絞ってまったりゆったりしたいくらいなのだけど、どれもこれも一般の高校生カップルのデートプランを参考にしたものだから、仕方ない。フットワークの軽さに脱帽するばかりだ、と思いつつ疲れないようにって足の痛くならない靴を選んで、先輩にも出来たら楽しんでほしいって、思うのに。


「…先輩、昨日何してたんですか」

「勉強」
「え、偉いですね! てか受験生だから当たり前か、あ、私期末試験、今回は数学赤取らなかっんです、76、私にしては凄くないですか、頑張ったんです」
「そ」


 会話が全っ…然続かない。

 話したいことも伝えたいこともたくさんあるはずなのに上手く言葉に出来なくてもどかしい。

 映画館に向かう道中、道行く人はやっぱりクリスマスってだけで同世代のカップルで賑わっていて、その1組1組が一秒、一瞬を謳歌してるように思えてならないのにこんな気まずそうで、暗くて、会話をしていないのは私たちくらいだ。


「…ねー、あれ」

「絶対そうだって」
「だってカッコよすぎだし」


 レンタル彼氏、ってワードがどこからともなく飛んできて、こめかみで跳ねて地面に落ちる。わかってる、不釣り合いなことは。そんなの今更だ。それにどれだけめかし込んだって、私は私にしかなれない。

 「クリスマスだしねー」「でも逆に虚しくない?」とかひそひそ声で言われて一々耳を傾けてしまう自分も嫌になる。

 それから、横断歩道の信号が青になってから相変わらずなんの音沙汰もない先輩を見上げて、スタートダッシュで小走りになって、届かない距離を前にして、改めて気付かされた。


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