さよなら虎馬、ハートブレイク
 

 映画開始時刻になって、チケットの座席に腰掛ける。映画は、洋画だった。自分一人じゃ絶対観ない、字幕の戦争映画。

 初めは違うかもしれない、というほんの僅かな希望も、映画が進行するにつれ、勘違いではないと思い知らされる。呼吸が荒くなって、脂汗が噴き出すくらいには。他の4、5作から同じ時間帯にやっているこの作品だけを私が候補から(はぶ)いたのには、理由があった。

 私は、見たことがあった。確か自宅のTVCMで予告編を。戦時中。路地裏に迷い込んだ一人の日本人の女の子。それに目をつけた米兵の数人が確か、…たしか、







 女の子を。



「………ちょっ、…、す ま…せん」


 結局私は映画の途中。暗がりの中、せり上がってくるものに堪えきれずシアターから抜け出してしまった。




 ☁︎


 耳元でちゃぷん、と音がした。

 シアター外のソファで座り込んでいた私は、背後から差し出されたミネラルウォーターのペットボトルを黙って受け取る。

「…ごめん、いじわるした」

「!」
あんなの(・・・・)見たらオズちゃん耐えられないってわかってた。そしたら多分こうなることも」
「…」

「そうまでして俺はオズちゃんの前で有利に立っていたかったんだ」

 伏せたままの目が、自分でも左右に揺れるのがわかった。乾いた唇をきゅっと噛み締めて、やっとのことで声にする。

「………ひどい」

「でしょ。でも俺ってそういう人げ」
「そこまで無理して」
「…」

「…先輩はなんで、そこまでして私に嫌われようとしてんですか」



「先輩はなんで、私に嫌われることにそんなに必死なんですか?」



 きっと睨みつけたら、見上げた先で驚いた目が、少しだけ笑った。


「…必死だよ。
 だって俺、自分じゃ断ち切れねえもん」


 瞠った視界から外れる人影を、私の目は追いかけることが出来なかった。









 映画1本を観きる前に映画館を出てしまったことで、カフェで一息ついたのちに予定の時刻より早くアミューズメントパークを訪れた。休日のそれもクリスマスとあっては、やはりパーク内は予想以上の賑わいだ。


< 356 / 385 >

この作品をシェア

pagetop