さよなら虎馬、ハートブレイク
映画開始時刻になって、チケットの座席に腰掛ける。映画は、洋画だった。自分一人じゃ絶対観ない、字幕の戦争映画。
初めは違うかもしれない、というほんの僅かな希望も、映画が進行するにつれ、勘違いではないと思い知らされる。呼吸が荒くなって、脂汗が噴き出すくらいには。他の4、5作から同じ時間帯にやっているこの作品だけを私が候補から省いたのには、理由があった。
私は、見たことがあった。確か自宅のTVCMで予告編を。戦時中。路地裏に迷い込んだ一人の日本人の女の子。それに目をつけた米兵の数人が確か、…たしか、
女の子を。
「………ちょっ、…、す ま…せん」
結局私は映画の途中。暗がりの中、せり上がってくるものに堪えきれずシアターから抜け出してしまった。
☁︎
耳元でちゃぷん、と音がした。
シアター外のソファで座り込んでいた私は、背後から差し出されたミネラルウォーターのペットボトルを黙って受け取る。
「…ごめん、いじわるした」
「!」
「あんなの見たらオズちゃん耐えられないってわかってた。そしたら多分こうなることも」
「…」
「そうまでして俺はオズちゃんの前で有利に立っていたかったんだ」
伏せたままの目が、自分でも左右に揺れるのがわかった。乾いた唇をきゅっと噛み締めて、やっとのことで声にする。
「………ひどい」
「でしょ。でも俺ってそういう人げ」
「そこまで無理して」
「…」
「…先輩はなんで、そこまでして私に嫌われようとしてんですか」
「先輩はなんで、私に嫌われることにそんなに必死なんですか?」
きっと睨みつけたら、見上げた先で驚いた目が、少しだけ笑った。
「…必死だよ。
だって俺、自分じゃ断ち切れねえもん」
瞠った視界から外れる人影を、私の目は追いかけることが出来なかった。
映画1本を観きる前に映画館を出てしまったことで、カフェで一息ついたのちに予定の時刻より早くアミューズメントパークを訪れた。休日のそれもクリスマスとあっては、やはりパーク内は予想以上の賑わいだ。