さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「先輩見てください、なんかあっちイベントやってる!」

「うん」
「黄色いのいっぱいいますよ、ほらあれ! 見えてますか!?」
「うん」
「先輩、」


 しきりに指をさして目の前で跳ねて見せても、いつもより抑揚のある声で名前を呼んで見ても、返ってくる返事はいつだって同じ。カフェにいた時からそう。私ばかり喋って、その度に先輩は目も合わせずに曖昧な返事を返すばかりで、ついにじわ、と目尻に弱音が浮かんだ。

 だって笑える。今なら、付き合ってって冗談めかして言っても二つ返事で頷いてもらえそうだ。何それ適当すぎる。そんなのごめんだ。

 まっぴらごめんだ。


「…っ」


 やっぱり、だめなのかもしれない。

 もう届かないのかもしれない。私の声じゃ救えないのかもしれない。
 このひとの心はもう、

「なあ」

 ふいに隣から呼びかけられて、ゆっくりと顔を上げる。何も言わずに真っ直ぐ指差す方向に、私も自然と目をやった。


「あれ、乗りたい」









 ☁︎


「お二人様ですね! 動きますので足元お気をつけ下さい、快適な空の旅を〜!」


(…なんでよりによって観覧車)

 元気いっぱいの女性乗組員さんにお見送りされ、観覧車の中に先輩とふたりで乗り込む。ゴンドラは初めごうん、と音を立てたっきりそれ以来は静かで。外界と遮断されてしまっては雰囲気で盛り上がることも出来ない。これほどまでに静寂が酷だなんて知らなかった。


(……万事(ばんじ)(きゅう)す、か)


 そう、両手を組み、そっと目を閉じた、その時。



「ミラクルスペシャルボーナスタ——————イム」



 一際(ひときわ)馬鹿みたいな声がした。

 幻聴? いや、しかと聞いた。顔を上げて目を丸くする私の向かいで、紛れもなく声を発した張本人・藤堂先輩は、私を真っ直ぐに見て笑っている。


「…え、?」

「この観覧車の中にいる間は小休止ってことで、お互い鉄仮面(てっかめん)無しにしよう。俺もオズちゃんの質問になーんでも答えたげる

 あ、でもスリーサイズ以外ね」

「あなたそれいつも言うけど逆に聞けって〝フリ〟ですか」


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