さよなら虎馬、ハートブレイク
闇に堕ちる
(…………×)
×。×。あいつも×。
開いたノートに書かれているのは、このクラスの席順だ。
無機質な枠の中に書かれたクラスメイト一人一人の名簿、その上は全部自分が×印で埋めた。
唯一、ただ一人の名前を除いて。
一思いに潰してやろうと「藤堂真澄」の文字の上にペンの切っ先を置いた瞬間、目の前が影に覆われる。
顔を上げると、そこに最後の名前の主が立って、笑っていた。
☁︎
クリスマスが終わると、あっという間に年が明けて、1月になった。
「今日も冷えるわねー、帰省してみんなに会えるのも楽しいけど、やーっぱり我が家が一番。床暖房無いと底冷えするもの」
「博多最高〜って僕の実家のこたつで寝正月だったくせによく言うよ」
「失礼ね! ぐうたらするのはお正月の特権でしょう!?」
「否定はしないんだね。…そういえば凛花は?」
「散歩だって。寒いの苦手なくせに珍しい」
「えぇ…また会えるの週末だから出掛けるなら一緒に行こって声かけたのに」
「右から左よ。いつもそうでしょあの子」
誰に似たのかしら、と頰に手を添える凛花の母・都子の全く思い当たる節のなさそうな顔に、その夫はジト目をくれてからいってきます、と玄関の戸を開けた。
年始早々、日本列島に襲来したという爆弾低気圧は最強寒波をもたらし、「今季は暖冬かも」だなんてほのめかされていた12月末日から10日も経たないうちに。気象予報士の発言は政治家のように手のひらを返し、世界は雪化粧に染まった。
東京都心も十数年ぶりに15cmだかの積雪を記録したらしい。誰もまだ通っていない真っ白な雪の上、ざく、とローファーで雪を踏みしめると靴下に雪が染みて冷たい。
つ、と鼻の下を伝う感覚にずっと鼻を啜ると、吐き出した呼吸が目に見えて映った。
クリスマスの一件以来、先輩とは会ってない。
あんなに胸に抱いた情熱も、この雪に飲まれて風邪を引いてしまった。
淡く白んだ灰色の空に今、私の好きな青は見えない。