さよなら虎馬、ハートブレイク
「てかさーバカでしょなんで気づかないわけ? だっておかしいじゃん普通に考えて、いくら仲良いったっておれ藤堂のことベラベラきみに話しすぎでしょ、何全部律儀に真に受けてんのちょっとは警戒しろっつの
もうおかしくってさ、トドメで小津さんの逃げ道を塞いだ時は耐えらんなくて噴き出しちゃった」
〝このことは、あいつのために誰にも言わないで〟
思い出す。涙が溢れる。頭を下げてそう言った、あの時声が震えていたのは、
…笑っていたから、だったんだ。
「………して」
「うん?」
「…、どうして」
「どうして、って? そんなの、言わなくてもわかるでしょ」
嫌いだからだよ、あいつのことが。
「答えは歴然。おれはいつだってあいつの引き立て役で、エキストラ。それに辟易しただけさ」
いつの間にか頰を伝った涙を、近付いた智也先輩の指先がすくい上げる。直後、とんと軽く肩を押された。バランスを崩してマットに倒れこんだ私の上に彼は構わず跨ってくる。
「だからごめんね、小津さん。
あいつに救われたとこ悪いんだけどもう一度壊れてくれる?
大丈夫。今度は跡形も残らないくらい」
滅茶苦茶に傷付けてあげるから。
するり、異常に冷たい手が首の付け根に触れて、小刻みに首を振る。…嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ、
「藤堂先輩!!」
「オズちゃん!」
その声に、意識が飛んだ。
開け放たれた扉から仄暗い倉庫に光が差してほっと息をついたのも束の間、散瞳した先輩が智也先輩にぐっと照準を合わせる。
「——————智也お前、」
「せん」
地の底から這い出たような声だった。
怒りに触れた体が智也先輩をひっ捕らえ、その合間に呼びかけた私の声に一瞬だけ目があった。来るな、逃げろと、正気を失う一歩手前の感情だけを投げ打った。 先輩に真っ向から組み敷かれた智也先輩は、無抵抗のままやんわりと顔を傾ける。
「そうそう、その反応。
…心の行き場を失って絶望に打ち拉がれる」
お前のその顔が見たかった。
瞳が震えた瞬間、先輩の手がほぼ無意識に宙を舞う。握った拳が振り下ろされるすんでのところで、
「先輩やめて!!」
私の声にぴたとその手が固まった。は、と忘れていた呼吸を吐き出す彼の半身を、直後容赦なく智也先輩が蹴り飛ばす。