さよなら虎馬、ハートブレイク
なに、あれ。
「ねー、1年生。暇でしょあそぼーよー」
「カラオケ行こ、カラオケ」
見知らぬ3年生数人が溜まっているではないか。
昇降口へと繋がる一階は、三学年が集う合流地点にもなるため先ほどとは比べ物にならないくらい人が多い。今3年がたむろしているのもその合流地点のど真ん中だが、帰るためにはここを避けては通れない。
何でよりによってこんなところで、ナンパなら他でやればいいのに。声をかけられて満更でもなさそうな一年女子の反応を遠目で見て、ドン引きしてしまう。
それがかえって目に付いたらしい。壁にもたれていた3年の一人が隣の男子に耳打ちし、そして、
私を、見た。
「あ、ねえきみだっけ、話題の純情少女」
「わー本当だ。黒髪色白少女、すっげー俺好み」
「上玉、上玉」
「な、こっちおいでよ」
それまで声をかけていた一年生から標的を切り替えたのか、彼らはそれまで動きもしなかった癖に私を見つけるなりゆるゆると動き出す。階段を一歩、また一歩と上がってくると私も後ずさる。
待って、何で。
「やだ、来ないでください」
「やだ♡ だって、くそ可愛い」
「逃げられると追いたくなるんだなーこれが」
「っ、!」
「逃げたぞ追え!」
弾かれたように駆け出し、持ちうる限りの体力をフル稼働させて走る。バタバタと後ろから追いかけてくるのは紛れもなく3年だ。ヤバい、どこ行く、何で、あいつらが来れないところ、
————————————トイレ。
ほぼ反射だった。思わず駆け込んだのは3年教室、廊下の端にある女子トイレ。その一番奥まで逃げ込むと、タイル壁に右半身を預け、鞄を抱き締めたまま呼吸を整える。何。何なの今の。
さっきまであんな騒音が響いていたのが嘘のように、トイレの外は妙な静寂に包まれている。行った…のか?