さよなら虎馬、ハートブレイク
第三章
青天の霹靂
新緑の季節、5月下旬。
窓辺から届く小鳥の囀りに鼓膜をくすぐられて、ふかふかの毛布の中で寝返りを打つ。
春と夏のあいだ、空がからりと晴れて強い日差しは眩しいけれど、世界が光に包まれる過ごしやすい季節だ。でもそんなひと時も一瞬で過ぎ去ってしまうから、外気にさらされた肌は毛布に閉じ込めたぬくもりごとコントラストを抱きしめる。
そんな特別な休日の朝、史上最高のまどろみ。もう叶うならお布団と結婚したいなあ、なんて。寝ぼけ眼で何気なく掴んだスマホを見て私は、
「………えっ」
腹の底から悲鳴を上げた。
「今日月曜だあああああぁっ…!!」
私のバカ。バカ、ほんとバカ!
これだから昨晩夜更かししてラジオなんか聞くんじゃなかった!
『────明日、朝早くから日帰りで旅行に行くから寝坊は絶対しないでね』
昨夜、背中越しの私にそう言ったのは紛れもなく母だった。
いかんせんTVに夢中だったし、更に猫特集とかで二つ返事で相槌をくれる私に母はちょっと聞いてるの、とか言っていたような気がしないでもない。
いわゆる週末婚と呼ばれる我が家は基本平日母と私の二人だけで土日になれば家族団欒になるのだけれど、そんな父も今週に限っては仕事が忙しいとかで家に帰って来なかった。
となれば自ずと週明けを私一人で迎えることになるわけで。
「ここまで自立してないとは思わなかった!」
セーラー服をまとい手櫛で髪を整える。その際後頭部右耳の後ろあたりに発芽を確認したけど、気にせず家を飛び出した。
☁︎
時刻は8時15分。
自宅から学校までは大体徒歩で三十分はかかってくる。30分から開始される朝礼にはダッシュで近道を行けば間に合わないこともないけれど、生憎今日は週始めの月曜日。3学年合同で行われる全校集会の日だ。
全校集会に遅刻すれば、生活指導の教頭にも目を付けられるだろうし、そうなると反省文は必須になる。
…いやだ。それだけは回避したい、反省文なんか書きたくない!
そんなことを考えているうちにもバス停に辿り着き、ちょうど停車し大勢の人を飲み込んでいるバスを見て私は足を止めた。