さよなら虎馬、ハートブレイク
やさぐれ女子と鬼コーチ
都立翔青高校、体育館。
女子バスケットボールが行われているコートでは、ホイッスルと選手たちのシューズの音が床を鳴らしていた。
「フミ、」
4番のビブスを着た女子生徒がコートを駆け抜け、相手チームを牽制し、パスを繰り出す。
「サラ」
ジャンプして受け取られたボールは、そのまま相手の選手を抜け、
「ナツ!」
ゴール手前で待機していた選手がボールを受け取り、フェイントをかけパスを投げる。
「小津さんっ」
ばしん。
てん、てん、てん…ころり。
「「「「………」」」」
──────そのチームの5人目の選手・小津凛花の顔面にぶつかったボールが、てんてんとコートを跳ねたのち、
フロア内にいた全員の視線を買いながらころころと動きを止めたところで、
ピーッと甲高いホイッスルの音が鳴り響いた。
☁︎
(い、痛い)
体育の授業が終わり、先ほど盛大に打ち付けた顔に、体育館前の水道で濡らしたタオルを当てる。たかがバスケットボール、されどバスケットボール。激しい勢いで飛んできたボールは、無防備な人の顔にぶつかれば凶器にもなり得るわけで。実際ノーガードの私の顔に当たったボールは、鼻から赤い血を噴射させた。
額はまだヒリヒリと痛むけれど、鼻に差し込んでいたティッシュにもう赤は滲んでいない。
「…止まってる」
「なっちんおっつ~」
「!」
ふと顔を上げると、体育館出入り口から球技大会で同じチームになった女子4人組が歩いてきていた。
聞くところによると、彼女たちは球技大会の種目決めのとき、いの1番に女子バスケットボールに立候補していたらしい。チームでもキャプテンを務めるリサを筆頭に、皆実力派揃いの女子バスケットボール部所属だという。
「さっきの試合ヤバかったね、勝てるのあれ」
「てかなっちんのパスが悪い。小津さん全然反応出来てなかったじゃん」
「痛そうだった~、初心者なんだから手加減しなきゃだよナツ」
(…ぁ、)
さっきの試合、私のせいで負けちゃったんだ。ちゃんと謝っておかないと。
「あの、」
「あたしあいつキライ」