さよなら虎馬、ハートブレイク
「…いけっ!」
私が放り投げたボールはゴールに吸い込まれるように宙を舞ったのち───
がこん、と弾かれた。
「へたくそ」
「今なんか言いました?」
「失言でした。申し訳ない」
いつの間にそこにいたんだろう。
反射的にぶん投げたボールは、腕組みをして入り口横の壁にもたれていた藤堂先輩の真横すれすれにめり込み、しゅうううぅ、と音を立てて弾む。
一気に青ざめた様子の彼は湯気の立つ真横の壁を恐る恐る見たのち、ボールを拾い上げた。
「神出鬼没ですか、よっぽど暇なんですね」
「帰りがけに通りかかったらいたんだろ。
一人で何やってんの、今体育館使用禁止だぞ」
「見てわかりませんか、練習です」
球技大会の種目選択でぼんやりしてたら女バスに振り分けられたので。
「生憎、球技全般苦手な私は今日の授業で珍プレーをお披露目し、チームメイトから総スカン食らいました」
「お、おん…」
真顔で淡々と語るねえ。
そう言った先輩は、私の鞄の隣に自分の学生鞄を置き、館内に足を踏み入れる。なんで来んだよ、と思いつつも構わず次のボールをゴール目がけて投げると、さっきよりとんちんかんな方向へ飛んでいった。
「そんな闇雲に投げたって入るか」
「じゃあ入れてみてくださいよ」
少し離れたところでドリブルしていた先輩が、ゴール目掛けてボールを投げる。まるでそれは、一瞬。
ボールは吸い込まれるように、パシュッと音を立ててネットをくぐり抜けた。
………うわ。そういやこの人、運動神経抜群なこと忘れてた。
「教えて差し上げても構いませんが?」
まるで犬のように従順に戻ってきたボールを掲げ、得意げに笑ってみせる先輩にむっとする。…むかつく。普段剽悍者のくせに、何でこういう時は決めるわけ。
「………お、教えてください」
「どうしよっかな~?」
「!? なんっ」
「脇締めろ、脇。でないと投げた時ボールがブレんだよ」
私のボールの持ち方を真似して閉じるよう指示する先輩に、ワンテンポ遅れて脇を締める。私が嫌々ながらも言うことを聞いたのが面白かったのか、彼は少しだけ歯を見せた。
「足はゴールに対して真っ直ぐ。そこから投げんなら…そうだな、膝少し曲げて、屈んで前に突き出すように。ラインちょっと意識してみな、本番の時前提で」
「はい」
言われた通り屈み込み、ゴールに意識を集中させる。膝を曲げ、脇を締め、───思い切り腕を前に突き出して、
ボールはリングに弾かれた。