さよなら虎馬、ハートブレイク
「平常運転です」
「なるほど」
これは…壊滅的だな、と頬を掻く先輩の反応すら、お約束過ぎて最早何とも思わない。
そもそも今に始まったことではないのだ、私の球技の壊滅さは。母から聞くところによると、物心ついたときからボール遊び自体は好きだったらしい。その割に、小学生のときの玉入れで一人違うチームのカゴにボールを投げるわ、投げたボールは明後日の方向に飛んでいくわ。
だからこそそれ以来、私に球技は「ご法度」だったっていうのに。
「ルールはわかる?」
ボールを持って難しい顔をしていた私の隣で、先輩が顔を傾ける。
「はい。5対5で、ジャンプボールで始まって、ドリブルしながら走って、ゴールに入れる」
「うんそうな。ボール持って三歩以上歩いたらどうなるんだっけ」
「反則。トラベルする」
「トラベリングね」
惜しい、と指を鳴らして笑った先輩は、ボールをドリブルしながらゴール下まで歩いていく。今日の試合でも思ったけれど。バスケ部の上手い子なんかのドリブルは、ボールが吸い付けられるように手のひらから離れないから、すごいなぁ。
先輩も正しくそれそのもので、その様子を目で追っていると突然、二歩踏み込んでシュートを決めた。
「今のがレイアップシュート。初心者が習得しやすいシュートね、一週間後の大会までにオズちゃんには今のをやってもらいます」
「無理です」
「バスケってのはさ、センスなんだよセンス。よく駆け引きがどうのとかって、まぁ心理戦もあるけど全部が全部そうってわけじゃない。体が覚えないなら、理屈で覚える」
とん、とこめかみのあたりを指で示し、手招きをする彼。黙ってそれに従い恐る恐る近付くと、先輩は自分が立っていた位置に私を誘導した。
ゴール下、斜め45度くらいの位置だ。こんな間近でゴール狙うことあるのか、と見上げた辺りで先輩が横から顔を出す。
「ゴールの後ろの板、あれバックボードっていうんだけど。内側、右上の枠狙ってみな」
「え、板に当てるんですか」
「騙されたと思って。はいどうぞ」
もう、こうなったら深く考えるのはよそう。今はゴールを狙うことより、四角右上に当てることだけを考えて。意識を集中する。両手でぎゅう、と強く握り締めていると、背中。頭の上らへんから、先輩の声。
「両手に力入れんな、軸を見失う。利き手に集中して、左手は添えるだけ」