さよなら虎馬、ハートブレイク
ボールを顔面に向かって投げると、それが直撃した先輩が背中からぶっ倒れる。
要するに、ボールだけに集中するでもなく、相手だけに集中するでもなく。俯瞰で見て、その中間に立ったとき、相手とボールの動きを見極めることができる。その技を学んだ、ということか。
今回は男だったから自ずとそれが出来たけど。相手が“女子”の時でも、同じように出来るかな。
「にしても、1on1初めてなのに俺のフェイント見抜くとは凄いねえ。左に視線外したからそっちに行くと思ったんだけど、さすが」
「人間信用してないんで」
「真顔でそういうこと言うんじゃないよ…」
☁︎
「先輩は、何の種目にしたんですか?」
下校時刻30分前。
一週間にも渡ったバスケ猛特訓の最終日は明日に備えてクールダウンも兼ねた、キャッチボールだった。一つだけボールを残して後片付けを済ませたあとのその最中、不意に浮かんだ疑問をぶつけると、間髪入れず返される。
「サッカーとバスケとテニス」
「3つも!?」
「ピンチヒッターだからねえ」
何てことはない体を装っているが、つくづくこの男、ただ者ではない。と、同時にやっぱり気に入らない。
「…なんか不公平。私はこれだけ練習してもろくに上手くならなくて、仲間にも疎まれてるってのに」
「自分の価値を決めるのは他人じゃないよ」
「そうかな」
「そうそう。少なくとも俺は努力して栄光掴む人間の方が好きよ? 伸びしろがあるっていうか…人間が必死なとこって、何かいいじゃん」
「漠然としすぎ」
先輩のパスは弧を描くように丸くて、私の手元にぽすりとはまる。それに比べて私のパスは、脇を締めて腕を前に突き出すことを意識するあまり攻撃的だ。目一杯投げているのに、彼は何てことはないように受け止めてくれる。
「にしても、ぼんやりしてて気が付いたらバスケに振り分けられるって、授業中何考えてたの」
「あぁ…、タオルのことですよ。前に先輩に友だち作る口実に返せって言われたけど、まだ───…」