さよなら虎馬、ハートブレイク
「アカリ───、あっ」
4番のビブスを纏う、こっちのチームのキャプテンは1年のバスケ部でもレギュラーを務める、リサこと仲谷梨沙だ。体育の授業の時もそうだったけれど、彼女の瞬発力とスタミナはすごい。
C組の女子が投げたパスを空中で受け止めると、容易に彼女を固める2人を抜け、あっという間にシュートを決めてしまった。
さすがに此方はチームメイトの4人が現役女子バスケ部所属ということもあって、あれよあれよと言う間に点数に差が開き、2点を許しただけで初戦は、勝利した。
「C組余裕だね」
「リサがさすがすぎ!」
「私じゃなくて、ナツの単独ゴールのおかげだよ」
「張り合い甲斐なかった」
ぼ、ボール…触れなかった、なあ。
一つノルマを達成して浮かれてただけに、私ならできるなんて天狗になってたけど。案の定試合中私がゴールを決めることも、またボールに触れることすらないまま初戦が終わってしまった。このままではまずい、と顔を上げる。
体育館の二階観覧フロアは、まだそこまで人が多くない。まだ初戦だからだと思う。これも最終戦となるとフロア全体が熱気に溢れ、人がごった返し、割れる歓声が響く───…
という噂だけど、本当にそんな風になるのかな。
「小津さん」
「わっ!」
後ろから突然ポンと肩に手を置かれ、飛び上がる。
「あ、ごめんそんなに驚くと思ってなかったから…
あのさ、次やる私たちの試合までまだ時間あるから、もしあれなら他の試合とか観に行っても大丈夫だよ」
「他の試合…」
「うん。私らも同じクラスのバド部の子観に行くから、11時にまた体育館集合ね」
そう言って去っていく仲谷さんを目で追うと、チームメイトの他3人の輪に戻っていった。
他の試合、か。
別に観たいのとかないんだけど、と視線を伏せたところで、反対コートで行われていた男子バスケットボールの試合にふと目がとまる。
“先輩は、何の種目にしたんですか?”
“サッカーとバスケとテニス”
「…先輩も、やってるのかな」
3年の球技がどこで行われるかはよく知らない。結局報らされた情報を頼りに、とりあえず体育館直通のテニスコートまで来てみた。
5月の終わり、過ごしやすい陽気のもとで日の光は容赦なく照り付けている。眩しさに目を細め、前髪のあたりに手を掲げ影を作る。
少し近付くと、コートの外にもパコーン、とボールを打つ音が鳴り響いている。さっき反対のコートでは2年男子がバスケをしていたから、3年の試合ならここら辺でやってそうなんだけど。