さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「──────もう一度!」


 振り向く。振り向いて、草薙さんの前に出て、思いっきり頭を下げる。


「もう一度チャンスをください!!」

「お、小津さん、」

「お願いします!!」


 無責任なことをした。理由はどうあれ、チームメイトのなけなしの信頼を踏みにじるくらい、それはめちゃくちゃで酷いこと。体育館の入り口で頭を下げる私に、何だ何だと周りがざわつき、人集(ひとだか)りが出来始めているのがわかる。

 それでも気にしなかった。どうだってよかった。

 めちゃくちゃだったかもしれない。私なんか戦力どころかいるだけで、下手くそで形になんてちっともならなかったのかもしれない。それでも。

 グラウンドを駆けてくあのひとみたいに。まっすぐ、いつか、私だって、誰かの力になりたい、って思ったの。


 思ったんだよ。それに。


 あの人がくれた時間を、無駄になんかしたくない。




「………オズちゃん?」

 視界にどんどん海が満ちて、落ちると思ったら声がした。

 顔を少しだけ上げてみると、今まさに体育館に来たらしい、智也先輩と藤堂先輩が見えた。恥ずかしかった。見られたくなんか、なかった。でももうぜんぶ、ぜんぶ遅い。私は構わず頭を下げる。


「お願い…っ…」


 声が震えた。

 もうすっかり輪を描くように出来上がっていた人集りの中、頭を下げる私に、そのうち目の前できゅ、と鳴ったのは(きびす)を返す音。


「今度は」

「…、」


「足、引っ張んないでよね」


 その言葉に、ばっと顔を上げる。でもその時にはもう草薙さんは背を向けていて、どんな顔をして言ったのか私にはわからなかった。


 ☁︎


 決勝戦は、昼食を挟んで午後1番に始まる。チームの4人が現役バスケ部で構成される1-A、対するは、同じくバスケ部4人とバレー部1人でチームが組まれている、1-D。

 試合開始直前。体育館に足を踏み入れると、既に二階の観覧フロアは応援の生徒たちで熱気に満ちていた。頑張れ! とか、絶対優勝!! といった歓声、臨場感、圧倒的緊迫感。

 その全てが重圧になって肩にずっしりとのしかかり、嫌な汗が背中を、伝う。


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